映倫 次世代への映画推薦委員会推薦作品 — 映画『キャロル・オブ・ザ・ベル 家族の絆を奏でる詩』—

ウクライナ民謡〈シェドリック〉がつなぐ明日への希望


ウクライナで何百年も前から歌い継がれている民謡〈シェドリック〉=〈キャロル・オブ・ザ・ベル〉。第二次世界大戦下、この歌を支えに懸命に戦禍を生き抜こうとする人々の姿を、ドキュメンタリー界出身で現在もキーウに住むオレシア・モルグレッツ=イサイェンコ監督が綴る。

舞台は、ウクライナ人、ポーランド人、ユダヤ人の3家族が暮らす古アパート。引っ越し当初はよそよそしかった彼らだが、ピアノ教師であるウクライナ人の母ソフィアが子どもたちに行う歌のレッスンを通して距離を縮めていく。そんな矢先、第二次大戦が勃発。ポーランド人とユダヤ人の両親が迫害によって連行され、ソフィアは残された彼らの娘たち、そして親とはぐれたドイツ人の少年さえも我が子同様命を懸けて守ろうとする。しかし、戦争はソフィア自身の命をも飲み込もうとしていた……。

脚本を手掛けたクセニア・ザスタフスカの祖母の実体験に基づいている本作は、ある日突然、何の罪もない人々が迫害され、無慈悲に日常が壊される戦争の恐ろしさをありありと物語る。第二次大戦中の話ではあるが、ロシアがウクライナを侵攻している今、戦争は現在と地続きであることを否が応でも痛感させられる。

1914年に誕生した〈キャロル・オブ・ザ・ベル〉は、ウクライナ文化が存在する証明であり、ウクライナ人の誇りを示す曲として今、再注目されているという。劇中でたびたび出てくる「戦争はいつ終わるの?」という問いに、我々が答えられる日は来るのだろうか。生命の尊さや人と人との絆の大切さという普遍的なテーマと共に、戦争のない世界を築くために何をすべきなのか。今一度、戦争や平和について考えるきっかけとして、本作がひとりでも多くの人のもとへ届くことを願う。

文=原真利子 制作=キネマ旬報社
(キネマ旬報2023年7月上・下旬号より転載)

 


「キャロル・オブ・ザ・ベル 家族の絆を奏でる詩」

【あらすじ】
1939年1月、ポーランドのスタニスワヴフ(現ウクライナ)にあるユダヤ人が住むアパートに、ウクライナ人とポーランド人の家族が引っ越してくる。そして、第二次世界大戦が勃発。ソ連やナチス・ドイツによる侵攻が始まり、ポーランド人とユダヤ人の両親は連れ去られてしまう。ソフィアは残された子どもたちを必死で守り、生きていこうとするが……。

【STAFF & CAST】
監督:オレシア・モルグレッツ=イサイェンコ
出演:ヤナ・コロリョーヴァ、アンドリー・モストレーンコ

配給:彩プロ
ウクライナ、ポーランド/2021年/122分/区分G

7月7日(金)より全国順次公開

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©MINISTRY OF CULTURE AND INFORMATION POLICY OF UKRAINE, 2020 ‒ STEWOPOL SP.Z.O.O., 2020