「アラビアンナイト 三千年の願い」巨匠ジョージ・ミラー監督が描いた、3000年の時を超える愛のファンタジー

「マッドマックス 怒りのデス・ロード」(2015年)で全世界を熱狂させたジョージ・ミラー監督の最新作「アラビアンナイト 三千年の願い」のBlu-rayとDVDが、9月6日に発売される(レンタルDVD同時リリース)。

この作品はイスラムの説話集『アラビアンナイト』をモチーフに、幽閉されていた孤独な魔人(イドリス・エルバ)と、古今東西の物語を研究する女性学者アリシア(ティルダ・スウィントン)が織りなす、壮大な魂のラブ・ファンタジーである。講演のためにトルコのイスタンブールを訪れたアリシアは、グランバザールで見つけたガラスの小瓶を買う。ホテルの部屋で彼女が小瓶を洗っていると、蓋が抜けて巨大な魔人が現れた。彼は小瓶から出してくれたお礼に『3つの願い』を叶えようと申し出るが、物語の専門家であるアリシアは、願い事がどれも危険でハッピーエンドがないことを知っていた。そこで魔人は彼女の考えを変えさせるため、紀元前から3000年に及ぶ自分の物語を語り始める。

 

魔人と女性学者が織りなす、『3つの願い』に関する寓話

「アラジン」ではランプの精としても登場する魔人だが、ここでの魔人は紳士的で会話好き。しかもこれまで三度小瓶に幽閉されてきた彼は、毎回人間の女性を愛したことが幽閉された原因となっている。体の大きさを自由に変化させ、超能力を持った魔人でありながら、その心はどこかロマンティストなのだ。対するアリシアは、子供の頃から一人でいることを好み、物語を愛するあまり、自分の物語を作るよりも他人の物語を研究することに喜びを見出した、孤独が最高と思っている女性。彼女は今の自分に満足していて、魔人に叶えてもらいたい願い事がない。魔人とアリシアは、他人を愛する者と自分に満足する者、願ってほしい者と願いがない者、不死の存在と限りある命を生きる者と、すべてが対照的。ジョージ・ミラー監督は原作のA・S・バイアットの短編小説を読んで、そんな二人が出会う物語に人生の謎と矛盾が多く含まれていると感じ、映画化を思い立ったという。

 

『旧約聖書』、オスマン帝国の時代を背景にした愛の物語

ストーリーの大半はイスタンブールのホテルの一室で展開されるが、魔人が語る3000年の物語が、観る者を壮大なロマンへと誘う。魔人は最初、『旧約聖書』にも登場する紀元前10世紀のシバの女王に愛を感じて仕えているが、彼女のハートを射止めたソロモン王によって小瓶に幽閉されてしまう。次はオスマン帝国の最盛期を築いたスレイマン1世の時代に、皇帝の奴隷の女性によって解放されたが、彼女が皇子に惚れたことが原因で小瓶にも戻れないまま幽体の状態で現世をさまようことになる。その後、オスマン帝国17代皇帝ムラト4世の時代に解放されるチャンスを得るが、皇位の継承者争いが起こって再び小瓶の中へ。そして次は今から200年ほど前、富豪の老人の囲い者になった若い女性に解放された魔人は、彼女の知的才能を伸ばすことに喜びを覚え、愛を感じていくが、この愛も成就することはなかった。魔人には解放してくれた人間の『3つの願い』を叶えなければ、自由の身になれない掟があって、彼は自分のためにもアリシアから願いを引き出そうとするのだ。

 

二人の名優が魂の旅をする、主人公の内面を繊細に表現

『アラビアンナイト』ものの映画といえば、魔法と陰謀と冒険に彩られた活劇をイメージするかもしれないが、ここに映し出されるのは愛と自由を求めて3000年の時をさすらう魔人の魂の旅であり、彼の物語を受け取ることで孤独から一歩踏み出していくアリシアの魂の旅である。そのインナー・ワールドで寄り添っていく魔人とアリシアを、イドリス・アルバとティルダ・スウィントンが見事に演じている。監督はイドリス・アルバをキャスティングした理由として、『友だちのような親しみがあり、どこか謎めいた面もあって、そこにカリスマ性を感じた』と言っている。通常は物静かな物語の語り部としてアリシアに寄り添いながら、時には過去の自分の失敗を思い出して急に逆上する一面もある、どこか人間らしくて多面的な魅力を持つ魔人をイドリス・アルバが繊細に演じている。知的なアリシア役にピッタリなティルダ・スウィントンも、他人を理解できないことを自分の自信に変えてきた女性の、心の中に抱える孤独の空しさを、絶妙のさじ加減で表現している。『旧約聖書』やオスマン帝国の世界をVFXも駆使して再現した映像の素晴らしさは勿論だが、彼ら二人の名演によって、この作品は深みのあるラブ・ファンタジーに仕上がった。

全編パワフルなアクションで見せた「マッドマックス 怒りのデス・ロード」とは毛色の違う作品を作ったジョージ・ミラー監督だが、かつて描かれたことがない世界を生み出そうとする空想への意気込みは今回も健在。新しい『アラビアンナイト』の物語を、魔人やアリシアと共に体感してほしい作品だ。今回のBlu-rayにはUS版も含めた4種類の予告編、2種類のメイキング映像、美術や衣裳、音楽などに関わったスタッフの証言も収められた様々なフィーチャレット映像、監督とイドリス・アルバ、ティルダ・スウィントン、プロデューサーのダグ・ミッチェルへのインタビュー映像、次回作「フュリオサ」の製作状況にも言及した日本プレミア試写会におけるジョージ・ミラー監督のリモート登壇映像など、約69分の《映像特典》として収められている。監督のコメントにもあるが、今回のパッケージでは本編の中に隠された『3』の数字に注目して見ると、一度見たことがある人でも、また違った楽しみ方ができるはずだ。

 

文=金澤誠 制作=キネマ旬報社


 

 
「アラビアンナイト 三千年の願い」

●9月6日(水)Blu-ray&DVD発売(レンタルDVD同時リリース)
▶Blu-ray&DVDの詳細情報こちら

 

Blu-ray 価格:5,280円(税込)
【ディスク】<1枚>
★映像特典★
・メイキング
・フィーチャレット映像
・監督&キャストインタビュー
・予告編集
・日本プレミア試写会ジョージ・ミラー監督リモート登壇映像


●DVD 価格:4,180円(税込)
【ディスク】<1枚>


●2022年/オーストラリア・アメリカ/本編108分
●監督・脚本・製作:ジョージ・ミラー
●出演:イドリス・エルバ、ティルダ・スウィントン

●発売元:キノフィルムズ/木下グループ 販売元:バップ
© 2022 KENNEDY MILLER MITCHELL TTYOL PTY LTD.

最新映画カテゴリの最新記事