災害時、ラジオは“お守り”になる! 見過ごされがちな〈ラジオの力〉を見せつけるドラマ『波よ聞いてくれ』

小芝風花演じる破天荒なやさぐれヒロインが我が道を突っ走る姿と、彼女を取り巻く仲間たちのラジオを舞台に巻き起こす日々を描き話題を呼んだドラマ、『波よ聞いてくれ』のDVD-BOXが9月6日にリリースされる。恋愛、ホラー、アクション…何でもありの刺激的なコメディーとして回を重ねながら、一方で災害時にラジオが果たした大きな役割──日常に引き寄せる“お守り”、についても描いてみせた。9月1日の「防災の日」に思いを傾けながら、本作の魅力について語ってみよう。

フルイメチェンの小芝風花と、ラジオを愛する人々を演じるキャスティングが◎

時代の移り変わりにより淘汰されるもの/されないものの線引きはどこにあるのだろう? ラジオ業界を舞台にした小芝風花主演のテレビドラマ『波よ聞いてくれ』を観ながら、そんなことをずっと考えていた。

音楽を聴くためのツールを例にとれば、筆者はレコード、カセットテープに始まり、CD、MDを経て、現在主流のストリーミングという変遷を経験してきた世代なのだが、昨年度のレコード販売枚数がCDを上回ったと聞いて驚いた。しぶとく廃れず、むしろ時代と逆行するように復権を果たしているのは、音楽を聴く喜びの原点のようなものがレコードにはあるからかもしれない。“しぶとく廃れない”といえば、ラジオも同様。このドラマにもラジオを「オワコン」呼ばわりしつつ、しぶとく奮闘し続ける熱き者が多数登場する。

原作は『月刊アフタヌーン』連載中の、沙村広明による同名漫画。2020年の「マンガ大賞」では第4位にランクインし、アニメ化もされた人気作だ。付き合っていたダメ男にフラれたあげく金も騙し取られた主人公・鼓田ミナレが、ひょんなことからラジオパーソナリティーとしての才能を開花させていく、コメディーであり熱血ヒューマンなお仕事ドラマであり時々ホラーでもあり…の要素てんこ盛りの全8話! 題材になりがちなテレビ業界に比べ知られていない(?)ラジオ局での激動の日々をあえてテレビドラマで描くという試みも、意外となかった目のツケドコロ。

注目点は数あるなか、まずどうしたって特筆すべきは、主演・小芝風花のイメチェンぶりだ。そもそも破天荒でやさぐれ、金髪にややドスの利いた声でマシンガントークをぶちかますミナレからは、真逆といっていいほどイメージの異なる小芝。人気原作の主人公としてミナレのキャラクターは広く知られていただけに、当初は意外なキャスティングと思われていたが…やってくれた! とにもかくにも百聞は一見に如かず。小芝演じるミナレをぜひ目の当たりにして、彼女の女優魂に度肝を抜かれていただきたい。余談だが、テレビ放送時には小芝出演の某麦茶CMが合間に流れており(DVDには当然収録されておりません)、「本当に同一人物!?」と、我ながら飽きもせず毎回驚愕していたことを思い出す。そんなキャラクター作りだけでなく、ミナレを演じるには噛まずに延々マシンガントークを続けられるスキルが必要だが、この点もアッパレ。なお今回収録される特典映像の中で、小芝の台詞量は全話合計2234行(!)にも及び、本番前には『外郎売』を唱えて滑舌を鍛えていたというエピソードが明かされている。

ミナレを取り巻く人々も、しっかり練られた良キャスティング。ミナレをラジオ業界に導くチーフディレクター・麻藤に北村一輝、ミナレの相棒的存在で同居人でもあるAD・瑞穂に「すずめの戸締まり」で注目された原 菜乃華、酸いも甘いも噛み分けたベテラン放送作家・久連木に小市慢太郎、一筋縄ではいかない先輩ラジオパーソナリティー・まどかに平野 綾。「オワコン」と口では言いながらラジオにしかない自由を愛し、距離の近いリスナーと真摯に向き合う彼らの姿勢に、ミナレは次第に感化されていく。ラジオ局の面々以外にも、ミナレがアルバイトしているスープカレー店「VOYAGER」の同僚・中原に片寄涼太(GENERATIONS)、突如現れる謎の美女でラジオの構成作家志望の城華に中村ゆりか、ミナレと毎回バトる店長(筆者イチ推しキャラ)に西村瑞樹(バイきんぐ)ら。特典映像にはスピンオフドラマ2作──TELASAオリジナルで配信された中原と城華の共同生活をメインに描く『波風よ立ってくれ』と、TVerオリジナルで配信された瑞穂フィーチャーの『荒波よ揉んでくれ~南波瑞穂のAD奮闘記~』を収録。ミナレ以外の愛すべきキャラクターたちの魅力もじっくり味わってもらいたい。


即時性と、時に“お守り“の役割を果たすラジオ


スープカレー店アルバイト兼、ド深夜ながら冠番組『波よ聞いてくれ』を持つラジオパーソナリティーとして活動することになったミナレ。「行き当たりばったり」がモットーの番組内容に従い、幽霊騒ぎ、ひきこもり問題、刃傷沙汰、人気カップルインフルエンサーの炎上…などなど、さまざまな事態に自ら首を突っ込んでいきながらワイワイと回は進んでいくのだが、最終話ではその色を若干変える。放送を控えた夜に、突然の大地震が発生するのだ。停電に見舞われ、非日常と暗闇が街全体を覆うなか、「こういう時だからこそ、お前の声をラジオで届ける意味があるんだよ」と、麻藤は『波よ聞いてくれ』の通常放送をミナレに命じる。休みなくぶっ通し、電気復旧まで続くミナレのマシンガントークが、不安に包まれた街を鼓舞し…。

東日本大震災を例に出すまでもなく、災害時においてラジオは大きな役割を果たす。即時性ある情報を得るメディアとして、そして、非日常に怯えるメンタルを少しでも日常に引き寄せる“お守り”として。物理的には遠く遠く離れているのに、ラジオの声はまるですぐそこから聴こえてくるように感じるのはなぜなのだろう。数多くあるSNSによって繋がっているように錯覚させられるが、実はたいして繋がっていない人間関係の希薄さに気づいているはずの現代人。一方で、ラジオから聴こえてくる声の温もりには、人と人が繋がる心地よさの原点のようなものが確かにある。そんなコアの部分がなくならず、ミナレや麻藤のようにマイクの向こうで奮闘してくれる人たちがいる限り、ラジオはきっと淘汰されない──確信と願いをもって、全話を見終えた。

文=武田吏都 制作=キネマ旬報社

 


『波よ聞いてくれ』

●9月6日(水)DVD-BOX発売(レンタルDVD同時リリース)
▶DVDの詳細情報はこちら

●DVD-BOX:20,900円(税込)
【封入特典】
・スペシャルリーフレット

【映像特典】(95分)
・制作発表記者会見
・秘蔵メイキング集
・鼓田ミナレこと小芝風花のラジオ『波よ聞いてくれ』特別ver.
・TELASAオリジナルスピンオフドラマ『波風よ立ってくれ』
・TVerオリジナルスピンオフドラマ『荒波よ揉んでくれ~南波瑞穂のAD奮闘記~』
・公式SNS動画集
・PRスポット集
※レンタルには収録されません

●2023年/日本/本編378分+特典映像95分
●出演:小芝風花、片寄涼太(GENERATIONS)、原 菜乃華、中村ゆりか、平野 綾、西村瑞樹(バイきんぐ)、井頭愛海、中川知香、小市慢太郎、北村一輝
●原作:沙村広明『波よ聞いてくれ』(講談社「月刊アフタヌーン」連載)
●脚本:古家和尚
●演出:住田 崇、片山 修、植田 尚
●音楽:林 ゆうき、山城ショウゴ
●主題歌:マカロニえんぴつ『愛の波』(TOY'S FACTORY)
●企画協力:古賀誠一(オスカープロモーション)
●エグゼクティブプロデューサー:内山聖子(テレビ朝日)
●プロデューサー:高崎壮太(テレビ朝日)、神通 勉(MMJ)
●制作:テレビ朝日 MMJ

●発売元:テレビ朝日 販売元:ハピネット・メディアマーケティング
©沙村広明/講談社/テレビ朝日・MMJ

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