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これまでのイメージを覆すシンデレラ!白銀世界を駆けめぐる「シンデレラ 3つの願い」は、今を生きる人々に共感必至のヒロイック・ファンタジー!


 果てしなく広がる白銀の大地。雪景色の中、芦毛の馬に乗り疾走するシンデレラ。時に彼女はクロスボウ(石弓)を放ち、男まさりな狩猟の腕前を披露する。まるでヒロイック・ファンタジーの冒険世界のようだ。だが驚くなかれ、これは“シンデレラ”の物語なのだ。エネルギッシュで現代的なヒロインによる、今まで見たことのないシンデレラ・ストーリー、ノルウェー映画史上最大の動員数を記録した「シンデレラ 3つの願い」が劇場公開を経て7月5日よりレンタルが始まった。

舞踏会へ参加を願うシンデレラは、3つの魔法の木の実を手に入れた

雪に覆われた農村。両親を亡くしたシンデレラ(アストリッド・S)は、いじわるな継母(エレン・ドリッド・ピーターセン)に召使いのように扱われている。つらい仕事に疲れ果て、かまどのそばで居眠りしてしまう彼女の顔はいつも煤まみれだ。彼女は亡き父から教わった乗馬やクロスボウを使った狩りが大好きで、継母の目を盗んで白銀の平野で遊んではつかの間の自由を満喫し、希望を取り戻している。

ある日、村に国王が訪れ、王子(センジス・アル)の結婚相手を探す舞踏会の開催を告げた。継母は連れ子を妃にしようと目の色を変える。だが、当の王子は親の決めた相手と結婚する気などさらさらなく、おバカな従者と野山で遊んでばかりいる。その野遊びの途中、彼はシンデレラと偶然出会い、馬の扱いや狩りの技術に長けた彼女に興味を抱く。王子と知りあったシンデレラは舞踏会への参加を願うが、いじわるな継母がいてはかなわぬ夢だ。

そんなある日、シンデレラは3つのはしばみの木の実を手に入れる。それは彼女を助ける魔法の木の実だった。ひとつめの木の実は彼女を猟師に変装させ、王子の前で見事な狩りを見せて気を引かせた。ふたつめの木の実は舞踏会用のドレスに変わった。そうして憧れの舞踏会で王子とダンスをしたシンデレラ。しかし継母に見つかりそうになり会場から逃げ去る。残された金糸銀糸の靴を手がかりにシンデレラを探す王子。納屋に監禁されたシンデレラははたして脱出できるのか。王子と再会できるのか。そして3つめの木の実の魔法は何を起こすのか──。

日本人が知らないもうひとつのシンデレラ・ストーリー

本作は間違いなく「シンデレラ」を踏襲している。しかし魔法使い、かぼちゃの馬車、ガラスの靴、12時の約束などシャルル・ペロー原作にあるお馴染みのモチーフは出てこない。一方、鳥がヒロインの味方をしたり、はしばみの木の実が魔力を持つ設定に、素朴で牧歌的なグリム兄弟版「灰かぶり姫」との類似を感じる方もいるだろう。だが本作にはグリム版と別の原作がある。

ボジェナ・ニェムツォヴァー。19世紀のチェコ文学に大きな足跡を残したこの女性作家の童話が本作の原作だ。日本ではあまり知られていないが、ニェムツォヴァーは数多くの児童文学を書き、チェコばかりかヨーロッパ全土で読み継がれている有名作家である。彼女の手による「灰かぶり姫」を原案として1973年に製作されたチェコ/東ドイツ映画「シンデレラ 魔法の木の実」(監督ヴァーツラフ・ヴォルリチェク 日本では80年代にVHS発売)が本作のオリジナルだ。野山を駆けめぐり、鳥や動物たちを友とする活動的で男まさりのシンデレラ像や、政治嫌いで世継ぎの自覚もないダメ王子のキャラはこの映画から生み出された。その現代的感性によって「~魔法の木の実」は人気作品となり、ヨーロッパでは長い間、クリスマスシーズンにテレビ放送されたという。 

それから約半世紀。長い時を隔て本作「シンデレラ 3つの願い」がリメイクされた。監督のセシリ・A・モリスは女優やTVディレクターのキャリアを持つ才人で、本作で長編映画に初挑戦し成功を手にする。本作はノルウェー映画史上、最大の動員数を記録したのだ。木造建築や蝋燭の灯りを生かした美術や古風なデザインの衣装で近世ヨーロッパのイメージを再現、雪景色の中で展開するストーリーも独創的で、本作はハリウッド製シンデレラ映画と一線を画すビジュアルを構築した。逆にホラーキャラめいた継母(E・D・ピーターセンの演技が怖い!)やシンデレラが監禁されるスリラー的展開には現代的エンタメのセンスがあり、見る者を退屈させない。

1973年のオリジナル版は、3つめの木の実が王子との婚礼のウエディング・ドレスに変わった。だがリメイクの本作は最後の魔法がオリジナルと決定的に違っている。それは今を生きる人々すべてに力強いエールを送る。はたして何が起きるかは映画を最後まで見てのお楽しみ。

主演女優・アストリッド・Sはノルウェーの人気歌姫

主演女優・アストリッド・Sは2013年にノルウェーのオーディション番組参加をきっかけにデビュー。ノルウェー・チャートで4位になり、アメリカでデビューもしたR&B系の歌姫だ。ノルウェー発、欧米各国でリメイクされたドラマ「SKAM」への出演をきっかけに女優活動を開始、初主演作として世界で公開されたのが本作だ。可憐でお転婆で、実に堂々とした演技は彼女が今後、リアルなシンデレラ・ストーリーの主役となることを予感させる期待の女優だ。気に入ったら、動画サイトにあがっている彼女の歌もぜひ聞いていただきたい。

本作は「シンデレラ」物語に込められたステレオタイプ、「女性は王子様に迎えられる日を待っている」とは明らかに違ったメッセージを観客に届ける。古い時代が舞台にしつつもはっきりと現代を描いた新しい「シンデレラ」は大人にも子供にも希望を届けるはずだ。


文=藤木TDC 制作=キネマ旬報社

 


「シンデレラ 3つの願い」

●7月5日(水)レンタルリリース

●2021年/ノルウェー/本編87分
●監督:セシリエ・A・モリス
●脚本:アンナ・バッヘ=ビーク、カルステン・フル、カミラ・クログスフェーン
●出演:アストリッド・S、センジス・アル、エレン・ドリッド・ピーターセン

●発売・販売元:プルーク
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