役所広司ら俳優陣とオーディションから選ばれた外国人役の若者が問いかける“家族”のかたち「ファミリア」

タイトルは、ポルトガル語で「家族」を意味する「família」に由来する映画「ファミリア」(成島出監督)は、日本で暮らすブラジル人の若者たちと日本人との交流と軋轢を主軸に据えた社会派作品だ。と言っても、決して堅苦しい内容ではなく、ラテンの陽気なリズムに乗って、笑いと涙、アクションにロマンスと、娯楽の要素がちりばめられている。家族って一体、何なのか。この深い問いの答えは是非、2023年6月2日にリリースされたBlu-ray & DVDで探り出してほしい。

ヘイトクライムにテロリズムなど今日的な社会性も

物語は、愛知県瀬戸市の窯業の家に生まれ、在日ブラジル人が多く住む団地が近いという環境で育った脚本家、いながききよたかのオリジナルストーリーだ。

妻に先立たれた陶器職人の誠治(役所広司)は、ひとり息子の学(吉沢亮)がプラントエンジニアとしてアルジェリアに赴任中で、山里の窯元に独りで暮らしていた。その学が、現地で結婚した難民女性のナディア(アリまらい果)を伴って一時帰国する。幸せそうな息子夫婦を目にして心が和む誠治だったが、学が「ここで焼き物をやる」と打ち明けると、「ナディアさんはどうなる? あの子の笑顔を守ってやれ」と猛反対する。貧乏で妻に苦労をかけっぱなしだった誠治は、息子には同じ道を歩ませたくなかったのだ。

そんなある夜、誠治宅にブラジル人青年、マルコス(サガエルカス)が逃げ込んできた。ケガをして半グレ集団に追われていたマルコスを介抱した誠治たちは、後日、お礼に訪れた恋人のエリカ(ワケドファジレ)からバーベキューパーティーに誘われる。団地に集団で住むブラジル人たちは、生活は苦しくても陽気さを失わず、誠治はまるで家族のような居心地のよさを感じる。一方、日本人を嫌っていたマルコスも、息子夫婦がアルジェリアに戻ってまた独り暮らしとなった誠治に、亡き父親の面影を重ねていた。

映画は誠治とマルコスの心の交流を中心に、在日外国人へのヘイトクライムや、日本人を巻き込んだテロリズムなど、今日的な社会性をたっぷりと盛り込んで情感豊かに展開。世界で活躍するミュージシャンで、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)親善大使を務めるMIYAVIが半グレ集団のリーダー役を演じているほか、佐藤浩市、松重豊、中原丈雄、室井滋といったベテランの芸達者が脇を固め、オーディションで選ばれた外国人役の若者たちを支える。

役所広司が見せるごく当たり前の感情に心震える

見どころはいっぱいありすぎて、さて何から書いていいのやら悩むくらいだ。

まず何と言っても、主役の役所広司の存在感に圧倒される。誠治は養護施設出身という家族の愛を知らずに育った男で、最愛の妻は若くして亡くしてしまった。それでいて屈折しているでもなく、孤独の影を引きずっているでもなく、喜び、悲しみ、怒りといったごく当たり前の感情を、奇をてらうことなく素直に表に出す。半グレ集団との対決でも、特段強いわけではないのに一歩もひるまずに立ち向かう姿は全く無理がなく、共感を覚えずにはいられない。

中でも、ある悲劇の後、子どもができたと喜ぶ息子の笑顔をタブレットで見つめる横顔からは、まさに役所しか表現し得ない複雑な情緒が浮かび上がっていて、心が震えた。このシーンをワンカットで、しかもタブレット画面も役所の表情もどちらも映るように捉えたベテラン撮影監督、藤澤順一のカメラワークは見事の一語に尽きる。

息子役の吉沢亮も、自分の幸せと父親を思う気持ちのせめぎ合いをごく自然に体現しているし、敵キャラとも言える憎まれ役を、悲しみを内に秘めて説得性を持たせて演じたMIYAVIの凄みも見逃せない。さらに外国人役のキャストは、本業はプロの格闘家というサガエルカスを始め、皆これが映画初出演だというから驚く。日本人にも成れない、ブラジル人でもない、そんな中途半端な存在としての行き場のない苦しみを体当たりで演じていて、その演技は目を見張るばかりだ。

今の空気感を醸し出すリアリティあふれる演出

メガホンを取ったのは、「八日目の蝉」や「ソロモンの偽証」2部作、「いのちの停車場」など、骨太の人間ドラマに定評のある成島出監督。今回も移民問題を始めとした社会性を前面に押し出しながら、家族の意味を問いかける深みのあるテーマを織り込んだ。

急増する海外からの移住者に対し、眉をひそめる向きは多いが、それは相手のことをよく知らないからに過ぎない。コミュニケーションを重ねてお互いに分かり合えば、文化や風習の違いを乗り越えて、家族以上に大切な存在になり得るはずだ。

そんな監督の思いが凝縮されているのが、団地の広場で開かれたバーベキューパーティーのシーンだろう。陽気なサンバのリズムが流れる中、シュハスコなどブラジルの料理が次々と振る舞われ、誠治たちを親密にもてなす。脚本家のいながきの実家近くにある、実際に多くのブラジル人が住む団地で撮影されたそうで、道理でドキュメンタリーのようなリアリティが感じられるわけだ。まさに映画の中に今の空気感が、ぎゅっと閉じ込められているような気がする。

これらの秘話は、Blu-rayの特典映像にふんだんに盛り込まれている。メイキング映像には、くだんのバーベキューパーティーで「サウーヂ(乾杯)」の掛け声の打ち合わせを重ねる様子を始め、とっておきの場面の舞台裏が満載。日本人のキャスト、スタッフとブラジル人らが互いに尊敬し合って、良い映画にしようという思いがひしひしと伝わってくる。

またサガエルカスやアリまらい果ら、外国人役を演じた若手出演者による座談会は、特典ならではのお楽しみだ。ブラジルの正月とクリスマスの過ごし方の違いなど、意外なトリビアがクイズ形式で披露され、お得感が強い。映画本編で外国人との相互理解や家族の意味について深く思いを巡らせた後、ほっと一息つくには最高のおまけかもしれない。

文=藤井克郎 制作=キネマ旬報社

 

 

「ファミリア」
●6月2日(金)Blu-ray&DVD発売(レンタルDVD同時リリース)
▶Blu-ray&DVDの詳細情報はこちら

●Blu-ray:5,280円(税込) 
【映像特典】
予告編・TVSPOT集/メイキング映像/完成披露上映会&公開記念舞台挨拶/ファミリア・トーク

●DVD:4,290円(税込)
【映像特典】
特報/予告編

●2022年/日本/本編122分
●監督:成島出
●プロデューサー:伊藤伴雄
●脚本:いながききよたか
●音楽:安川午朗
●出演:役所広司、吉沢亮、サガエルカス、ワケドファジレ、中原丈雄、室井滋、アリまらい果、シマダアラン、スミダグスタボ、松重豊、MIYAVI、佐藤浩市

●発売元:キノフィルムズ/木下グループ 販売元:ハピネット・メディアマーケティング
© 2022「ファミリア」製作委員会