おいしい料理を通して移民問題を描く社会派コメディ

「社会の片隅で」(18)のルイ=ジュリアン・プティ監督が、移民大国フランスが抱える深刻な問題を社会派コメディとして仕上げた一作。UAM(保護者のいない未成年者)と呼ばれる移民の子どもたちを調理師として育成する活動に取り組む実在のシェフ、カトリーヌ・グロージャンをモデルに、我が道をいく一匹狼のシェフと少年たちの成長を描き出す。

ミシュランの一つ星レストランのシェフから数カ月にわたって指導を受けたというカティ役のオドレイ・ラミー、カティと共に全身全霊で少年たちを支援する施設長ロレンゾに扮したフランソワ・クリュゼが出演。二人のベテラン俳優が対峙するのは、実際にパリの移民支援施設で暮らす若者たちだ。演技初体験ゆえのまっさらな言葉運びや態度がそのままスクリーンに映し出され、彼らが今まさに直面している現実をよりリアルに感じることができる。

 

移民施設で暮らす少年たちは、18歳までに職業訓練学校に就学できなければ強制送還させられてしまう。そのためロレンゾは料理ド素人の彼らをカティのもとで学ばせ、将来への足掛かりにしようとする。食材の収穫から調理法、配膳までイチから教え込むカティ。「厨房では性別も国籍も関係ない。女性蔑視なんてもってのほか!」と豪快に啖呵を切る彼女は、やがて料理を教えるだけではなく、自らも子どもたちを守る必要があることを学び始める。将来を夢見る彼らに自分ができることは一体何なのか? カティの決断が、少年たちの未来を大きく変えていく。

おいしい料理を通じて見えてくる、移民問題や多様性のある社会について考える大切さ。特に小学生高学年以上の、次世代を担う若者にとっては、劇中の少年たちのように、本作が〝記憶に残る一皿になるはずだ。

文=原真利子 制作=キネマ旬報社
(キネマ旬報2023年5月上・下旬合併号より転載)

 

 

 


「ウィ、シェフ!」

【あらすじ】
フランス本土最北端の港町。一流レストランのスーシェフとして働くカティは、味より見た目重視のシェフに三行半を突き付けられ、店を飛び出してしまう。そんな彼女が辿り着いた場所は、移民の少年たちが暮らす自立支援施設。不衛生で缶詰しかない調理場や人手不足に啞然とするカティに、施設長のロレンゾは少年たちの手助けを依頼するが…。

【STAFF & CAST】
監督:ルイ=ジュリアン・プティ
出演:オドレイ・ラミー、フランソワ・クリュゼ、シャンタル・ヌーヴィル、ファトゥ・キャバほか

配給:アルバトロス・フィルム
フランス/2022年/97分/区分G

5月5日(金)より全国公開

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