女性の欲望に焦点を当て、女性も楽しめるエロスを描いた令和の「ロマンポルノ」

半世紀もの歴史のある「ロマンポルノ」が女性も楽しめるエロスを目指し、レーベル50周年記念企画として誕生した「ROMAN PORNO NOW」。三人の監督が競作し、令和のロマンポルノとして話題となった三作品をまとめたBlu-ray BOXが、4月28日にリリースされた。女性の欲望に焦点を当てた各作品の魅力に迫った。

女性も楽しめるエロスを目指して


1971年に日活が立ち上げた「日活ロマンポルノ」。ロマンポルノ開始当初は、〈10分に一度エロティックな描写を入れる〉〈尺数は70分程度〉などのルールがあり、それを守りさえすれば何を撮ってもOKという条件のもと、多くの若手監督や演技者がこのレーベルに集い、才能を開花させた。昨年のヴェネチア国際映画祭では田中登監督の「㊙色情めす市場 4Kデジタル復元版」(74)がクラシック部門に選出され、話題を呼んだのも記憶に新しい。しかしながらエロスが男性のものであったあの時代、当然ながら鑑賞者は圧倒的に男性たちだった。 

男性だけでなく女性も楽しめるようなエロスを生みだすプロジェクトが2016年より始動し、昨年はレーベル50周年を記念した企画「ROMAN PORNO NOW」が誕生。【私の“好き”の物語。】というキャッチコピーが表しているように、女性たちに焦点を当てた三作品が競作された。


緩急巧みな性描写で自然に観せる──「手」(松居大悟監督)

「ちょっと思い出しただけ」(22)など意欲作を連発する松居大悟監督が、山崎ナオコーラの同名小説を映画化した「手」。中年男性を隠し撮りする趣味を持つ25歳のさわ子(福永朱梨)は、部長(津田寛治)とデートをしつつ同年代の同僚・森(金子大地)とも親しくなっていく──。 

10分に一度エロを入れるというセオリーには、作り手の力量が如実にあらわれる。不自然であれば失笑を買うし、ストーリーの流れも削ぐ。その点で本作のエロスは実にナチュラルだ。昔のBFとのカラオケボックスセックスや、プレジャーグッズを使っての自慰。いくつかのジャブ的な短いHを入れたのち、森との行為に及ぶ場面ではじっくり、丹念に撮っている。性描写に緩急があるので、こうしたジャンルになじみのない人でも自然に観ることができるだろう。 

原作では、さわ子が〝おじさん〞を観察するのには「ロリコン文化の批評」という意味あいがあった。映画ではそれを「お父さんが大好き」ゆえの行為と変えている点に、男性観客(それもロマンポルノを積極的に観ようという世代。すなわちさわ子の父親と重なる世代)の心情を慰撫しようとする作り手からの目くばせを感じる。 

特典ではさわ子と森が自室で「会議室プレイ」をする場面のロングバージョンが味わい深い。いい濡れ場も惜しげなく刈り込んで、ドラマの精度を上げていたことがよく分かる。 


SM(緊迫)シーンの妖艶さに息を呑む──「愛してる!」(白石晃士監督)

鬼才にして異才、白石晃士監督が得意とするフェイクドキュメンタリーの形式で、SMの世界に足を踏み入れる地下アイドルの冒険と成長を描いた「愛してる!」も快作だ。 

オーディションで選ばれた川瀬知佐子扮する主人公ミサが、SMの女王様カノン(鳥之海凪紗)に最初は反発し、やがて尊敬し、ついには恋慕を抱くようになる。オーディオコメンタリーで監督が「SMに対するダークでエグいイメージをぶっとばすものにしたかった」と語るとおり、カノンに認められる女王様になろうと邁進するミサの姿は、どこまでも明るくポジティブだ。それでいて、SM(ここでは緊縛が主)場面の妖艶さには息を呑ませるものがある。 

緊縛師の蒼月流氏がSM監修を務め、舞台となるSMクラブ「椿」のシーンにはSM界の本職や関係者の人々が出演しているのもリアリティを添えている。

健康的な肉体美と陽性のキャラクターであるミサと、スレンダーでミステリアスなカノン。カノンがミサの目を見つめながら縛り、なぶるように導くように極めさせる緊縛シーンの数々は性交以上のなまめかしさに充ちている。「縛りで大切なのは所作」「SMを否定しない世界観が嬉しかった」など、コメンタリーでの蒼月氏の発言の一つ一つが印象に残る。


コーディネーターの参加が生み出す美しき性愛──「百合の雨音」(金子修介監督)

「百合の雨音」は、三監督中で唯一オリジナルのロマンポルノ経験者である金子修介監督が、「OL百合族19歳」( 84 )でも扱った女性同士の性愛を描いたもの。出版社を舞台に、夫の不倫に悩む栞(花澄)と、そんな彼女に想いを寄せる部下の葉月(小宮一葉)。雨の夜に二人は一線を越え、互いの身体に溺れていく──。 

インティマシーコーディネーターが参加して撮ったセックスシーンの美しさは、三本の中で突出している。コメンタリーでは主演の二人が「(コーディネーターの方が)いてくれてとても心強かった」と語る。同性同士のセックスでリードする側の大変さや、不自然にならないよう、かつきれいに見えるような角度や体位を監督、コーディネーターと共に生みだしていったと明かしている。 

金子監督にとっても本企画は大いに刺激になったようで、「濡れ場の撮り方が昔とは変わった自分に気がついた」とのこと。かつてはフィルム撮りというのもあって、セックスシーンではたくさんカットを割っていた。今回はデジタル撮影だったので、長回しで存分に性交を描き抜くことができ、非常に得るものがあったという。そんな作り手の歓び(あるいは本気度)が映像から如実に伝わってくるのも、エロスものの特徴である。 

三者三様の個性と癖へきが存分にあらわれ、かつ今の時代のエロスが照射された三作品だ。

文=皆川ちか 制作=キネマ旬報社

 

「ロマンポルノ・ナウ BDコンプリートBOX」
●4月28日(金)リリース
▶Blu-rayの詳細情報はこちら 

●定価:14,850円(税込)
【映像特典】3作品共に
・メイキング映像/舞台挨拶/未公開シーン(「手」「愛してる!」のみ)/予告篇
【音声特典】
オーディオコメンタリー
【仕様特典】
・ブックレット(24P)
・豪華BOX
※仕様は変更になる場合があります。


「手」
●2022年/日本/本篇99分
●監督:松居大悟
●脚本:舘そらみ
●原作/山崎ナオコーラ「手」(『お父さん大好き』文春文庫)
●出演/福永朱梨、金子大地、津田寛治、大渕夏子、田村健太郎、岩本晟夢、宮田早苗、金田明夫

「愛してる!」
●2022年/日本/本篇94分
●監督・脚本・編集:白石晃士
●脚本:谷口恒平  
●出演:川瀬知佐子、鳥之海凪紗、乙葉あい、ryuchell、髙嶋政宏

「百合の雨音」
●2022年/日本/本篇84分
●監督:金子修介
●脚本:高橋美幸 
●出演:小宮一葉、花澄、百合沙、行平あい佳、大宮二郎、宮崎吐夢

●発売元:日活 販売元:ハピネット・メディアマーケティング
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