正義の行方(2024)の映画専門家レビュー一覧

正義の行方(2024)

1992年に福岡県飯塚市で2人の女児が殺害され今なお多くの謎に包まれる飯塚事件の全体像を多面的に捉え、令和4年度文化庁芸術祭テレビ・ドキュメンタリー部門大賞を受賞した3部構成のBS1スペシャル『正義の行方~飯塚事件 30年後の迷宮~』(NHK)を映画化。監督は、NHKスペシャル〈こども・輝けいのち〉シリーズ第1集『父ちゃん母ちゃん、生きるんや~大阪・西成 こどもの里~』が平成15年度文化庁芸術祭優秀賞・ギャラクシー賞特別賞を受賞するなど数々のドキュメンタリー番組を手がけ、映画「“樹木希林”を生きる」でもメガホンを取った木寺一孝。
  • 文筆家

    和泉萌香

    サスペンスドラマが始まるぞ、というくらいにスタイリッシュなオープニングだが、これから語られ問われてゆくのは女の子ふたりが殺され、犯人とされた男性が、最高裁で確定してから二年あまりで死刑になった実際の事件のこと。監督が聞き出す事件の当事者たちの言葉の数々はすさまじく、日本の死刑制度と、現在進行形でおこっている暗澹とした現実にも思いを伸ばすとともに、生身の人間の顔を映し刻みつけることの重さと<パワー>を持っているのが映画であると改めて震えた。

  • フランス文学者

    谷昌親

    犯人とされた男にはすでに異例の早さで死刑が執行され、真相は永遠にわかりようがないが、粘り強く丹念な取材によって殺人事件の輪郭をみごとに浮き彫りにしていて、ルポルタージュとして観るなら、圧倒的なすばらしさだ。それぞれの立場からの証言や主張が交錯するさまはスリリングであると同時に、人間が抱える闇や社会のひずみをあぶりだしている。しかし、映画作品として観る場合、関係者たちのひとりひとりが過ごした事件からの30年あまりの時間の手ざわりがほしいように思う。

  • 映画評論家

    吉田広明

    死刑が執行されるまでの経緯、再審請求する弁護士、捜査の問題点や自身の報道姿勢について検証する新聞の三段構え、重厚な作りで見ごたえがある。弁護士や新聞の検証で、警察の見込み捜査、状況証拠の弱さなどの疑義が明らかになってくる。問題なのはそれに乗っかった新聞の報道であり、間違いを認めようとしない司法なのだが、新聞は自己検証した、では司法は?というのが本作最大の問いだ。日本の正義の女神像は目かくしをせず、右顧左眄して判決を下すという言葉が核心を突く。

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