エドガルド・モルターラ ある少年の数奇な運命の映画専門家レビュー一覧

エドガルド・モルターラ ある少年の数奇な運命

マルコ・ベロッキオが“エドガルド・モルターラ誘拐事件”の史実に迫った衝撃作。1858年、ボローニャのユダヤ人街。教皇が派遣した兵士たちがモルターラ家に押し入り、7歳の息子エドガルドを連れ去る。両親は必死にエドガルドを取り戻そうとするが……。出演は「シチリアーノ 裏切りの美学」のファウスト・ルッソ・アレジ、「きっと大丈夫」のバルバラ・ロンキ。
  • 文筆業

    奈々村久生

    持って生まれたものよりも育つ環境が人を作る。その可能性と残酷さ。社会や政治の時勢に利用される宗教の力と脆さ。ベロッキオには無駄がない。必要最低限のカット。無駄がなさすぎて、映画が終わった瞬間に潔くシャッターを降ろされるような問答無用感がある。ユダヤ教とキリスト教の関係やローマ教皇の影響下における信仰については、その背景のもとに育っていなければおそらく完全には理解し得ないが、これがたとえ新興宗教だとしても原理は同じであることが事の重さを突きつける。

  • アダルトビデオ監督

    二村ヒトシ

    人間にとっていちばん大事なのは心の自由だと思うのだが、しかし心が自由であることなんて人間に可能なのかとも思う。なにかに洗脳されていなかったら人は人間になれないのではないか。暴力で連れ去られ、親が信じているのとは別の、こう生きたほうが幸せになれるという生きかたを教えこまれる。そういう宗教と宗教の戦い、倫理と別の倫理の争いに巻き込まれることを人間はずっとやってきたのか。この映画で語られているとても大きな歴史の問題は、僕にはどう捉えていいのかわからない。

  • 映画評論家

    真魚八重子

    エドガルドは母との別れで泣くような感情も見せるが、基本的には言われるがまま動く人間だ。ユダヤ人でありつつ、派手な教皇に対しスターへの憧れの眼差しを向ける。二つの生きる道の岐路に立つ彼が、同時に引率者を亡くすと空っぽになり、この数奇な運命は彼には重すぎてむごい。壁がアップになるとき、それは必ず向こう側から打ち壊されるためだという、映画のお約束にスカッとする。またエドガルドが磔刑に処されたキリスト像のくさびを抜くシーンも、心が射られた思いがした。

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