オッペンハイマーの映画専門家レビュー一覧

オッペンハイマー

原爆を開発した科学者オッペンハイマーの半生を実話に基づき、「TENET テネット」のクリストファー・ノーランが映画化。第二次世界大戦下の米国で世界初となる原子爆弾の開発に成功したオッペンハイマーだったが、投下後の惨状を聞き、深く苦悩するようになる。出演は、「ハイドリヒを撃て!『ナチの野獣』暗殺作戦」のキリアン・マーフィー、「クワイエット・プレイス」シリーズのエミリー・ブラント、「AIR エア」のマット・デイモン。第81回ゴールデングローブ賞作品賞、監督賞、主演男優賞、助演男優賞、作曲賞の最多5部門受賞。第96回アカデミー賞作品賞、監督賞、主演男優賞、助演男優賞、撮影賞、編集賞、作曲賞の7部門受賞。
  • 俳優

    小川あん

    クリストファー・ノーランがこれまで描いてきた宇宙物理学が歴史上の重要人物に点火した。真正面からオッペンハイマーと向き合ったノーランの映像作家としての極意が明らかになったように思える。まさに、素粒子のように思考を凌駕するほどの情報が飛び交い、人間の心理に爆発的なエネルギーが集まる。そして人物像が形成されていく! この手法に“65mmカメラ用モノクロフィルム”という最新技術が加わるのだから……。これほどの映画体験を味わうと、もう後戻りできない。

  • 翻訳者、映画批評

    篠儀直子

    決してわかりやすい構成ではなく、カタルシスが得られるわけでもないこの映画があれほど大ヒットした理由は、いま一度多面的に考察されるべきだろう。筆者はノーランのあまりよい観客ではなく、基本的に「脚本の人」だという考えはいまも変わらないが、原爆投下後、オッペンハイマーがチームに向けてスピーチをし、会場をあとにするまでのシーンの演出のマジックは圧倒的。ノーランが置かれている状況では、この演出でメッセージを表現するのが精一杯だったということでもあろうけど。

  • 編集者/東北芸術工科大学教授

    菅付雅信

    原子爆弾を開発した天才物理学者オッペンハイマーの栄光と没落。NHK Eテレの教育番組で終わりそうな地味でハリウッド映画的でない題材を、ノーランは持てる力を存分に注ぎ込んで圧巻のスペクタクルな映像・音響体験に仕上げた。ノーランの最高傑作とは思わないが、ノーランの映画作家力をこれほどまでに感じるものはない。そして映画の普遍的な主題は、超越的な力の獲得がもたらす非喜劇と時間=歴史の捉え直しであることを再認識。ノーラン自身が映画体験のマッド・サイエンティストなのだ。

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