海街奇譚の映画専門家レビュー一覧

海街奇譚

第41回モスクワ国際映画祭で審査員特別賞を受賞した、中国新世代のチャン・チー監督による長編デビュー作。姿を消した妻の故郷の港町を訪れた男が、夢と現、過去と現在を彷徨する物語を、卓越した映像感覚と比類なきイマジネーションで描出するアート・サスペンス。
  • 映画監督

    清原惟

    ノスタルジックかつSF感のある不思議な島に、俳優である主人公の男が訪れる。そこで起こる現実なのか非現実なのかわからない出来事と、彼の過去が交錯していく。細部へのこだわりを感じる映像表現、街に流れている時間に美しさも感じつつ、映画のために切り取られた世界に少し息苦しさと、どこか既視感を覚えてしまう。女性と男性の間にある不和や、街にいる異邦人としての彼の心境が次々重なっていき、夢を見ているような感覚に陥り、気がつくと現実の世界とは切り離されていた。

  • 編集者、映画批評家

    高崎俊夫

    失踪した妻を探し求めて、彼女の故郷である辺境の離島を訪れた男の彷徨譚。キザすれすれのネオ・ハードボイルド小説のような趣向、近過去と現在を行きつ戻りつしながら時制はいつしか攪乱されてしまう。極端に人工性が強調された、けばけばしいダンスホールの空間とセット。そこに深海魚のように生息する女たちと水槽で浮遊するクラゲを等価にとらえる強烈なメタフォアへの意志が垣間見える。時折、瞑想に誘う審美的なショットにハッとするが、すべては〈一炊の夢〉のようでもある。

  • 映画批評・編集

    渡部幻

    上海から船で1時間ほどの島の物語。かつて開発で繁栄したらしきこの島の景観は、しかし終末的なまでに閑散としている。袋小路的であり、島民は気だるく無気力。誰もが過去の思い出を彷徨っている。新鋭チャン・チーの監督デビュー作は、60年代の個人的、観念的な芸術映画風情だ。アントニオーニの如く“事件”を蒸発させ、70年代のニコラス・ローグ、80年代のニール・ジョーダンも連想させたが、“意味”を敷き詰めたスタイルのキザが堅苦しい。が、際どく吸引力を維持し続ける意欲作。

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