春画先生の映画専門家レビュー一覧
-
文筆家
和泉萌香
「性愛」という言葉自体が、男にとって都合のいいものではないかと思ってしまう。喫茶店という場で堂々と陰部が描かれた絵を広げる、自分の倍はする歳上の男に話しかけられ、恐怖心もなく家に上がり込み、あっという間にその男に惹かれる若い女。辻村(柄本佑)との関係の始まりだって不本意だ。デートレイプされ、「先生」や「文化」のためだからと言いくるめられた後のヒロインがさも自主的に、というように愛だの私は自由だのと語る、いや語らされているのにも?然とする。
-
フランス文学者
谷昌親
禁欲的な春画先生と積極的な弓子、そこに野放図な辻村がからむという関係をユーモアも交えつつ描き、春画というデリケートなテーマをうまく扱っている作品だ。物語は、先生の亡くなった妻の双子の姉の登場とともにいわば転調し、人物たちは春画の世界を現代的に生きるようになる。そうしたなか、坂の上にある先生の家のロケーションの味わい深さに加え、襖や障子で区切られた日本家屋内の空間がうまく使われている。日本間の部屋から部屋の移動が映画的なアクションとして魅惑的だ。
-
映画評論家
吉田広明
春画×先生という結びつきに意表を突かれるが、見終わってみると絶妙な題と分かる。禁忌などとは無縁の大らかさ、かつ表現として洗練を極めた春画の魅力に目を開かれるヒロイン。しかし教えることは教えられることでもあり、春画の自由を解きながら自らは禁欲的な先生は、生徒に禁忌を破るよう導かれ(調教され)る。鳥、傘、そして弓などの小道具も見逃せない。ヒロインの名を知った先生が弓を引く動作、そこで引かれた弓がラストに到着する。君にたどり着くまで僕は何と回り道したことか。
1 -
3件表示/全3件