それでも私は生きていくの映画専門家レビュー一覧

それでも私は生きていく

父の看病と新しい恋の始まりという正反対の状況に直面したシングルマザーの、悲しみと喜びがないまぜになる心情を繊細に描き出し、前を向いて生きることをそっと後押しするヒューマンドラマ。「未来よ こんにちは」の監督ミア・ハンセン=ラブが、自信の父の病を気遣うなかで脚本を書いた自伝的作品。フランス映画界のトップ女優レア・セドゥが主人公のサンドラに扮し、母親、娘、恋人の立場に戸惑いながらも力強く生きる女性を好演した。父親役にはエリック・ロメール監督作品の常連俳優、パスカル・グレゴリー。主人公の恋人役に「わたしはロランス」のメルヴィル・プポー。35ミリフィルムで撮影された陽光や草木の緑が淡く温かみのある色彩でロメール作品を思わせる。
  • 映画監督/脚本家

    いまおかしんじ

    父親の介護をする。父親は恋人の名前ばかり呼んで娘である自分のことなど眼中にない。新しい恋人は妻子持ち。うまくいきそうになるとやっぱり妻子のことは捨てられないと優柔不断。男と別れたりくっついたりを繰り返す。女の人の体がいい。大柄で手足が長い。子供を寝かせてすぐさま隣の部屋でセックスしようとする二人。大柄な体で男に覆いかぶさるように抱きつくセックスが良かった。介護施設の老人たちが本物すぎてビビった。母親がめちゃくちゃサバサバしていて笑った。

  • 文筆家/俳優

    睡蓮みどり

    レア・セドゥの表情が、本当にため息がでるほど素晴らしい。不安に駆られ、孤独に覆われ、嫉妬を恐れ、そして幸せをかみしめる。セリフがなくてもその表情から多くのことが伝わってくる。本作にちりばめられたあたたかな光はどんなときの彼女も拒絶することなく優しく包む。ミア・ハンセン=ラヴの才能を満喫することができる。映画に流れる時間は人生の一瞬でしかないかもしれないが、その一瞬は確かに存在する。そんな忘れがたい瞬間について考えたくなる贅沢な時間だった。

  • 映画批評家、都立大助教

    須藤健太郎

    終盤で読まれる日記は監督の実の父のものだという。「EDEN/エデン」(14)で兄の肖像を、「未来よ、こんにちは」(16)で母の肖像を描いてきたMHLは、今回は父の肖像に挑戦する。だが、それは娘を通して描かれる。娘の職業が「通訳/翻訳家」であるのはそれゆえであり、私たちは娘の翻訳を通じてしか父を知ることはできない。「グッバイ・ファーストラブ」(11)で映画作家が建築家と見立てられたように、通訳もまた映画作家の謂いだろう。人と人の間に立つ仲介者。

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