一晩中の映画専門家レビュー一覧

一晩中

官能的な熱を帯びた一晩の中で連結していく数々の出会いや別れを映し出す、「アンナの出会い」のシャンタル・アケルマン監督作。ブリュッセルの暑い夜。ある者は恋人の腕の中に飛び込み、ある者は街に繰り出し、ある夫婦は語らい、そしてある者はバーでダンスを踊る。出演は「バルバラ セーヌの黒いバラ」のオーロール・クレマン、「ベル&セバスチャン」のチェッキー・カリョ。撮影監督の一人に「北の橋」「ゴダールのマリア」「アネット」などを手掛けた名女性キャメラマン、カロリーヌ・シャンプティエが参加。『シャンタル・アケルマン映画祭 2023』にて上映。
  • 映画評論家

    上島春彦

    本作監督には舞台設定不明映画の系譜があり、これはその流れ。ブリュッセルらしいが詮索不要といった感じだ。何組のカップルが現れるのか数えていないと分からなくなる。私は途中で諦めた。それでも画面が見事に映画として成立しているので飽きさせない。特に終盤(翌朝)微かな明かりの中に牛乳瓶と若者が並立する画面が秀逸。これは小津安二郎映画にインスパイアされた物と察せられるが、日本映画にはかえってこういう超モダンな発想は見られない。青山真治に見せたら喜んだはず。

  • 映画執筆家

    児玉美月

    多くの時間が固定カメラによる長回しのショットで映され、定点観察的にさまざまな夜の人間たちが描写されてゆく。遅延した時間のなか主婦の家事労働を描くアケルマンにとっての代表作「ジャンヌ・ディエルマン」や、三部からなる構成的な厳格さを携えた「私、あなた、彼、彼女」などと等しく形式を重んじた作品群に連なる。カロリーヌ・シャンプティエの撮影が美しいことはもはや言うまでもなく、人生の大事なモメントがすべて夜にしか起こらないのではないかという幻夢へと誘う。

  • 映画監督

    宮崎大祐

    暗い。とにかく暗い。モニター鑑賞に適さないこの圧倒的な画面の暗さは、映画とは暗闇の中で目をこらすことではないのかというアケルマンの問いかけにも思える。のちにペドロ・コスタなどに受け継がれるであろう、闇の中でうごめく人々の一瞬のきらめきをワンシーン・ワンカットでとらえ積み上げていくことで観客の心に真っ黒な建造物を築き上げていくスタイルは本作でも冴えわたっており、運転中のカップルをとらえた前半のショットなどは思わず映画の勝利を叫びたくなる。

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