アダプション ある母と娘の記録の映画専門家レビュー一覧

アダプション ある母と娘の記録

1975年のベルリン国際映画祭で金熊賞に輝き、ハンガリー出身の女性監督メーサーロシュ・マールタの名を世界に知らしめた傑作を、製作から半世紀近くを経て日本初公開。既婚者と不倫関係にある未亡人カタは、寄宿学校で暮らすアンナと出会うが……。「メーサーロシュ・マールタ監督特集上映」にて上映。
  • 映画監督/脚本家

    いまおかしんじ

    木材を削る工場で木くずだらけで働く女の人。家に帰っても一人。不倫相手の男は妻子持ち。子どもが欲しいと言ってみる。男は途端にビビり始める。女はいつも何かを耐えているような不思議な表情をしている。自分で思いついたことを曲げない。意固地だ。その寂しさがひしひしと伝わってくる。たまたま出会った若い女の子の世話を焼く。この子も不思議な表情としか言いようのない顔でずっといる。彼女は女の部屋で彼氏と戯れる。裸でお互いの体を貪る。若々しくて眩しいセックス。

  • 文筆家/俳優

    睡蓮みどり

    アンナとカタ。ふたりの女性の顔がアップで映し出される。同じ食べ物や酒を注文して、不機嫌で不安な日々の中でも少しだけ笑う瞬間がある。結婚や子どもを持つというそれぞれの夢を互いに手に入れても、それは決して安心だとは言い切れないことを予感させる。これまでそうであったように、簡単にはいかないというこれからの人生の予兆。そんななかでふたりはきっと互いのことを何度も思い出すのだろう。名付け難い二人の関係に、名前など必要ないのだ。短い永遠を刻んだ名作。

  • 映画批評家、都立大助教

    須藤健太郎

    クロースアップが印象に残る。見たくないものを画面外に追いやるためではない、あくまで注視のために使われるクロースアップ。工場での作業風景を捉えた素晴らしい導入はその宣言である。木片を削って滑らかにしていく熟練の手つき。木粉にまみれた手と肘と腕。女たちの顔は作業を捉えるのと同様の接写で画面に収められていく。家父長制に依拠しないカップルや家族のあり方の探究は本作では疑似母娘を思わせる連帯を生む。その関係性は「マリとユリ」に引き継がれるだろう。

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