ケアを紡いでの映画専門家レビュー一覧

ケアを紡いで

経済的な支援の少ない“AYA世代”のがん患者、鈴木ゆずなさんに密着し、その実態に迫ったドキュメンタリー。27歳でステージ4の舌がんの診断を受けた看護師のゆずなさんは、夫の翔太さんや友人たちと時を重ね、命と向き合い、日々の暮らしを紡いでいく。監督は「ただいま それぞれの居場所」、「夜間もやってる保育園」など、現代社会のさまざまなケアの営みと制度のありようを見つめ続ける大宮浩一。
  • 脚本家、映画監督

    井上淳一

    一点突破全面展開。優れた物語は徹底的に個を描くことで、その周辺、社会までも描く。ステージ4の舌がんを患った主人公を追うことで本作はこの社会からこぼれ落ちているものを描く。医療費制度と介護保険の谷間で、病気で経済的に困窮する15?39歳をAYA世代と呼ぶなんて知らなかった。NPO任せでいいはずはない。絶対に死では泣かせないという強い意志。難病モノをやるすべての人は絶対に観るべき。坂本龍一ではないが、芸術は長く、人生は短い。ちゃんと生きた証しがここにある。

  • 日本経済新聞編集委員

    古賀重樹

    難病ものでありながら、お涙頂戴ではない。がんと闘う姿をいたずらに称揚することも、悲劇を強調することもしない。ただひたすら介護する側と介護される側がさまざまな局面で具体的に何を選択し、どう行動したかを追い、それぞれの生きざまに冷徹に迫る。生きていく術としてのケアを感傷抜きに見つめる。そうすることで、生と死がリアルに浮かび上がる。ナレーションを排し、すべてを登場人物に語らせるスタイルも手伝って、映画としての強度が高い。登場人物がみな愛おしくなる。

  • 映画評論家

    服部香穂里

    看護師のゆずなさんの、末期がんを患い逆転した立場から実情を自身の言葉で伝えることで、社会貢献を志す意思の強靭さに感服。病と率直に向き合うその姿を通し、経済的な助成制度のほぼない若いがん患者の苦境や、彼女の救世主となるNPO法人理事長の谷口さんの息子さんら、高次脳機能障害と闘うひとや家族の言い知れぬ想いも、ひしひしと伝わる。スヌーピー好きな可愛らしいカップルの、周囲を否応なく突き動かす類まれな人間力が生んだ、悲しくも温かな余韻に包まれる良作。

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