独裁者たちのときの映画専門家レビュー一覧

独裁者たちのとき

「太陽」「エルミタージュ幻想」のアレクサンドル・ソクーロフ監督による驚異の映像詩。黄泉の国を思わせる廃墟のなか、第二次世界大戦時に世界を牛耳っていたヒトラー、スターリン、チャーチル、ムッソリーニといった4人の独裁者たちが、天国の門を目指し彷徨う。独裁者たちの姿は、膨大な量のアーカイヴ素材からのみで構築され、すべて彼らの存命中に撮影された実際の映像を使用。また、独裁者たちの語るセリフはいずれも過去の手記や実際の発言の引用である。第35回東京国際映画祭にて『フェアリーテイル』のタイトルで上映。
  • 映画監督/脚本家

    いまおかしんじ

    キリストみたいな男が横たわっている。「起き上がってなんとかしろ」と文句を言われる。「体中が痛くて起き上がれない」と情けなく答える。どうやらここは地獄みたいな場所で、天国の扉が開くのを待っているらしい。扉がちょっと開いては「ダメだ」と拒否される。描写は珍妙。昔ドリフの漫画で、顔だけ写真で体が漫画っていうのがあったけど、それを思い出した。何か新しいことをやってやろうという実験精神に溢れている。ずっと夢を見ているような奇妙な感覚に襲われる。

  • 文筆家/俳優

    睡蓮みどり

    これは悪夢そのものである。霧に霞んで先がよく見えない様も、半透明になった顔のわからない人々が押し寄せてくる様も、止まらない汚い言葉の羅列も、よく見る悪夢の光景によく似たシーンがいくつも登場しぞっとした。アーカイヴ映像を駆使して悪夢へと変えたその手法が一体どのようなものだったのか、編集方法が非常に気になる。独裁者たちは再び蘇り、死ねない身体は彷徨いながら、自分たち自身の言葉を引用していく。映像もすごいが音もすごかった。ソクーロフ、天才すぎる。

  • 映画批評家、都立大助教

    須藤健太郎

    原題は「フェアリーテイル」、つまりおとぎ話だと思ってみると、作品の輪郭がよりくっきりと浮かび上がる。本来「歴史」の構築を担うはずのアーカイヴ映像と記録文書を組み合わせることで、歴史の対概念に達するわけだ。「資料のモンタージュ」によるおとぎ話。また、ソクーロフがデジタル技術の活用を「モンタージュ」概念の拡張に生かすとすれば、本作はいわゆる権力4部作より「精神の声」第1話(95)や「エルミタージュ幻想」(02)と比される。群衆は不定形の亡霊となる。

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