アンドレ・レオン・タリー 美学の追求者の映画専門家レビュー一覧

アンドレ・レオン・タリー 美学の追求者

アフリカ系アメリカ人初の『VOGUE』クリエイティブ・ディレクターとなり、スタイルと美学の定義を構築してファッション界の巨匠と呼ばれたアンドレ・レオン・タリーの生涯を描くドキュメンタリー映画。2022年1月18日に惜しくも73歳で他界したアンドレは、「プラダを着た悪魔」でスタンリー・トゥッチ演じるナイジェルのモデルとされ、白人の占める割合の多いファッション業界において、黒人モデルや非白人デザイナーたちの進出に積極的に貢献した。人種差別が色濃く残る時代のアメリカ南部で幼少期を過ごしたアフリカ系アメリカ人の彼が、如何に最も影響力のあるファッション・キュレーターにまでのし上がったのか。彼の人生と彼が残した数々の功績を生前の本人のインタビューと、マーク・ジェイコブス、アナ・ウィンター、トム・フォードなどファッション界を代表する人物たちの証言で振り返る。
  • 映画評論家

    上島春彦

    黒人カルチャーの映画というのは好みなので期待して見た。黒人教会の礼拝が一種のファッションショーだった、という好例がカラーで示されたり、自身が祖母と過ごした平穏でクリーンな少年時代をカポーティの『クリスマスの思い出』に喩えたり。本人の証言は面白い。しかしサンローランのスタッフに陰では「ゲイの猿」と蔑まれていたといった話を聞くと、要するにそういう程度の社会だよね、米国ファッション業界なんて、という怒りがこみあげてくる。これは私の偏見でしょうが。

  • 映画執筆家

    児玉美月

    昨年逝去したファッション界の巨匠アンドレ・レオン・タリーの来歴をめぐるドキュメンタリー映画。黒人男性という属性により被差別的な処遇に置かれざるを得ない当時のアメリカの苦境の中ですら、臆することなく貴族のように絢爛な服装で着飾り、「ファビュラス」を体現し続けたアンドレの生き様に瞠目。ただそうした振る舞いだけでなく、アンドレの仕事がどのように受容され、影響をもたらしたか、ファッション史においての位置付けを概観できる俯瞰的な視点がもう少し欲しかった。

  • 映画監督

    宮崎大祐

    魅力的な人間が生活している様子をとらえればそれはおのずと映画になるというお手本のようなドキュメンタリー。ジム・クロウ法下のアメリカ南部で生まれ、決して裕福とはいえない家庭の出であったアフリカン・アメリカンの青年が、白人貴族たちのたしなみであるファッション業界に単身飛び込み、本場フランスにおいても唯一無二の地位を築いたという事実は少なく見積もっても奇跡としか呼べないわけだが、本作はそんな奇跡もうなずけるアンドレの知性とチャームを存分に伝えている。

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