ペーパーシティ 東京大空襲の記憶の映画専門家レビュー一覧

ペーパーシティ 東京大空襲の記憶

東京大空襲の生存者にオーストラリア人映画監督が迫り東京ドキュメンタリー映画祭2022観客賞を受賞したドキュメンタリー。戦争や空襲の記憶が失われつつある今、10万人以上の死者を出した未曽有の悲劇を後世に残そうとする3人の生存者たちに肉薄する。東京を拠点にするオーストラリア人監督、エイドリアン・フランシスの長編ドキュメンタリー・デビュー作。2021年メルボルン国際映画祭正式出品作品。
  • 映画評論家

    上島春彦

    昭和20年3月の東京大空襲の記録映画、という側面は希薄で、むしろその記憶を語り継ぐ運動家たちの地道な活動に取材した企画。取材自体は数年前のため、当時の総理大臣の戦争体制推進法案が大きな話題となっている。それにしても祖国防衛などと口では言っていたこの人が準反日組織の支持者であったとは。まったく笑いごとではない。この映画を見ると戦争犯罪の記憶を失わないことの大切さを痛感すると同時に、記憶喪失を強いる巨魁とそのお先棒担ぎの存在を感じないではいられない。

  • 映画執筆家

    児玉美月

    本作のオーストラリア出身の監督は第二次世界大戦当時、日本の敵国であったがゆえに東京大空襲については映画を通して初めて知ったという。そうした個人の映画の記憶からこの記録の映画は生まれた。序盤の紙にインクが滲んでゆく映像は爆撃に見舞われた都市部のイメージを連想させるだろう。タイトル「ペーパーシティ」の通り、何度も差し込まれる紙のイメージを写すカメラは、燃やせば焼失してしまう脆弱な記憶と記憶をデジタル技術によって後世へと強靭に残そうとする意志となる。

  • 映画監督

    宮崎大祐

    丁寧に撮られた素朴なドキュメンタリーである。あの悲惨な大戦から早くも80年近くが経った。いや、まだたった80年しか経っていない。だが、この作品が撮影された当時からの6?7年で時代は急激に「戦前」へと回帰しつつある。あのすべてを奪った震災ですら10年やちょっとで忘れ去ってしまうのが国家でありわれわれである。劇中映し出される空襲生存者たちの「われわれに戦後はない」というスローガンを2023年に生きる日本人たちはどのツラ下げて眺めればいいのだろう。

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