別れる決心の映画専門家レビュー一覧

別れる決心

「オールド・ボーイ」「お嬢さん」のパク・チャヌク監督6年ぶりの最新作にして、カンヌ国際映画祭コンペティション部門で監督賞を受賞したサスペンスロマンス。崖から転落死した男の妻と、その女の調査を始めた生真面目な刑事。疑惑が深まるほどに二人の視線は絡み合い、惹かれ合っていく。主演は「殺人の追憶」(03)「神弓 -KAMIYUMI-」(11)のパク・ヘイルと、「ラスト、コーション」(07)で注目され、「ブラックハット」(15)でハリウッドにも進出したタン・ウェイ。共演は「新感染半島 ファイナル・ステージ」のイ・ジョンヒョン、三池崇史監督のドラマ『コネクト』のコ・ギョンピョ。韓国の権威ある青龍賞で2022年度の最優秀作品賞、主演男優賞、主演女優賞など6冠に輝いた。
  • 米文学・文化研究

    冨塚亮平

    作中のあらゆる要素を徹底してヘジュンとソレの関係性を微細に変化させるための触媒として用いることで、荒唐無稽な展開を強引に観客に受け入れさせてしまう力業の演出に舌を巻く。PCの要請を逆手に取るかのような、ほとんど触れ合うこともない二人に渦巻く激情は、スマホを用いた翻訳や録音によって誇張される互いの断絶を通じて高められ、相手にハンドクリームを塗るだけの接触場面を異様なまでに官能的なものとする。古典メロドラマの過剰さと現代性を奇跡的に両立させた怪作。

  • 日本未公開映画上映・配給団体Gucchi's Free School主宰

    降矢聡

    いろいろなギミックを使って演出される視線の複雑なやり取りや、凝ったシーンのつなぎによって、一筋縄ではいかない男女のロマンスを面白く見せてくれる。こうした多彩な演出は、明確に言葉にしては崩れてしまうこの二人の微妙な関係性を、曖昧に、あるいは繊細に表現し、映画にただよう雰囲気と主演のタン・ウェイはとても凛々しく妖しい魅力がある。しかし、越えてはいけない倫理的なラインを越えてしまう、決定的で理不尽でもある具体的なこれという瞬間が私は見たかった。

  • 文筆業

    八幡橙

    20年近く前、「評論家出身の監督の考える、いい映画の条件とは?」と取材で訊くと、パク・チャヌクは「一シーン観るだけで誰が撮ったかわかる映画」と答えてくれた。時を経て、今、その独自性に改めて敬服。「オールド・ボーイ」の激しさも「お嬢さん」の際どさも濾された後に残るは、程よく力の抜けた、究極の澄んだ愛だったとは……。イ・ミョンセ監督「М」ではBoAも歌った〈霧〉の切ない旋律と共に、絡みつくような余韻が後を引く。パク・ヘイルとタン・ウェイの相性も、出色。

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