二十歳の息子の映画専門家レビュー一覧

二十歳の息子

養子縁組によって「父親」になったゲイの勇気と、施設で育った「息子」の渉。それぞれに普通の家族や人生を選択してこなかった/できなかった歳の離れた二人の男性がゼロから新たな「家族」の関係を築いていく日常を追ったドキュメンタリー。被写体を見つめるカメラは親密でありながらも時に残酷なほど冷徹な眼差しを向け、感情の機微を丁寧にすくい上げる。監督は日本映画大学で教鞭をとる「春を告げる町」(20)の島田隆一。どんな枠組みにもとらわれず、人は人とどう繋がりをもつことができるのか。そんな困難な問いを、しなやかに捉えていく。
  • 脚本家、映画監督

    井上淳一

    分からないことが多い。なぜ少年を養子にしたのかも養父が働く自立支援団体もプレスを読まなければ分からない。それでダメな映画も多い。しかし本作は違う。撮っていて使わなかったのか、敢えて撮らなかったのか。とにかく相当に考え抜いて使うもの使わないものが選択されている。だから描いた以上のものが行間から伝わる。これぞ映画だと思う。「赤ちゃんの写真が残ってるっていいですよね」と呟く孤児の少年に泣いた。普通なんてどこにもないのだ。三十歳四十歳の息子が見てみたい。

  • 日本経済新聞編集委員

    古賀重樹

    字幕もナレーションもないダイレクトシネマである。勇気と渉が養子縁組を決意した理由はつまびらかにされない。ただ新しい生活を始めた二人のそれぞれの希望と苛立ちは確かに映っている。それぞれにマイノリティであることを自覚しながら、のっぺりとした社会と向き合い、その息苦しさを鋭敏に感じ取りつつ、前に進む。意外な結末が唐突に訪れるが、島田隆一監督はわかりやすい理由で説明することから慎重に距離を置く。だからこそ滲む二人の人生の苦みにリアリティがある。

  • 映画評論家

    服部香穂里

    劇中で、率直な質問を渉氏に投げかけ続ける女性が登場するが、撮入前の制作陣の取材内容の一部くらいは、観る者にも共有させるべきではないか。ふたりが出逢い、親交を深めて信頼を築き合い、養子縁組まで結ぶに到ったかの経緯がほぼ明らかにされないので、“親子”として暮らし始めた1年間のみを見せられても、正直とまどう。我が子を丸ごと尊重する網谷氏のご両親がすこぶる魅力的なだけに、これまでにない“家族”の関係が育まれるさまに、重点を置いてみてもよかったのでは。

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