世界は僕らに気づかないの映画専門家レビュー一覧

世界は僕らに気づかない

トランスジェンダーである自らの経験を元に制作した「僕らの未来」や商業デビー作「フタリノセカイ」で注目される飯塚花笑監督のオリジナル長篇第5作。日本人の父と離れ、フィリピン人の母と二人で暮らす青年・純悟のアイデンティティや愛をめぐる問題を当事者の目線で描く。主人公を演じるのは「東京リベンジャーズ」に出演する堀家一希。息子への深い愛情を抱きつつ、厳しい態度もとってしまう母親・レイナを演じるのは、スコットランド人の父親とフィリピン人の母親を持つガウ。2022年の大阪アジアン映画祭でワールドプレミアされ、「来るべき才能賞」を受賞。その後、ドイツ、韓国、ニューヨーク、香港、オランダ、シカゴ、フィリピンなど世界各地で上映。
  • 映画・音楽ジャーナリスト

    宇野維正

    サブタイトルに「Angry Son」とあるが、主人公の男の子がアングリーどころか健気すぎて、序盤から切なくなってしまった。その気持ちを最後まで引きずっていたせいか、物語の大団円にもどこかモヤモヤが。パート先のボウリング場での母親を巡る一連のシーンを筆頭に、注意深く見ればそんな「モヤモヤ」も取りこぼしていないのだが、演技のバラツキが作品全体の足を引っ張っている。眼差し一つですべてを表現できる、堀家一希の演技が突出しすぎているのがその一因とも言えるのだが。

  • 映画評論家

    北川れい子

    途方に暮れる僕もいれば、自分の立ち位置に悩む僕もいて、僕はそれぞれに大変なのだった。おっと、タイトル絡みとはいえ、ふざけてごめんなさい。同級男子を愛しているフィリピンのハーフ男子が、自分に正直に生きようとする話で、舞台は地方だが、少年たちを追い詰めるようなエピソードがほとんどないのが気持ちいい。主人公は、フィリピンパブで働くいつも口うるさい母親にウンザリしているのだが、どの人物もあえて肯定的に描いているのにも感心する。ラストがまた上等だ。

  • 映画文筆系フリーライター。退役映写技師

    千浦僚

    つい最近もルビー・モレノ氏が久しぶりにスクリーンに登場し、力強い存在感を放つのを高橋伴明監督「夜明けまでバス停で」にて目撃したが、本作にも正規の労働に掬われることのない在日フィリピンママの生活苦がある。経済格差の嵩にかかった日本の男ども、ダメだった。本作はその二世の話であるが、彼のアイデンティティはセクシャルな面でも困難を抱える。だが本作はユートピアを示す。白タキシードが二人並ぶ光景は実に映画的で面白い。映画は同性婚を祝福するメディアだ。

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