君に幸あれよの映画専門家レビュー一覧

君に幸あれよ

俳優・写真家としても活躍する櫻井圭佑による長編監督デビュー作。金と暴力が支配する世界に生きる真司。過去に舎弟分を亡くし人に興味を持つことを避けてきた彼だったが、不思議な青年・理人が現れ、一緒に過ごすうち、真司は次第に穏やかな日々を取り戻してゆく。出演は、本作が映画初主演となる小橋川建、「僕たちは変わらない朝を迎える」の高橋雄祐。
  • 脚本家、映画監督

    井上淳一

    雰囲気だけの映画というか。弟分を地震で亡くし、その喪失から立ち直れない半グレが、弟分に似た相棒と出会い、立ち直っていく話だと思うが、亡くしたのが弟分なのかも地震が原因なのかも半グレ組織もよく分からない。致命的なのは主人公がなぜ相棒を受け入れるか分からないところ。ここがすべての起点なのに。せっかく名のない役者だけで映画を作るなら、「竜二」のような一発逆転を目指さないと。これじゃ埋もれてしまうだけ。クドいようだが、まず脚本をちゃんと。髙橋雄祐がいい。

  • 日本経済新聞編集委員

    古賀重樹

    映像で語る力がある新人監督だと思った。弟分を亡くしたことが心の傷となっているチンピラが、どこか不思議な新しい弟分に少しずつ癒されていく。ところが……。そんないかにもありきたりな筋なのだけど、主人公の感情の振幅を具体的な身振りと風景によって的確にとらえている。抑え込んでいた激情のほとばしりも、忘れていた心の穏やかさを取り戻す瞬間も逃さない。新しい命に一縷の希望を見出すというステレオタイプの物語も許そうと思えるくらいの幸福感がある。

  • 映画評論家

    服部香穂里

    制作本数だけは膨大な業界で闇雲に出演を重ねても、俳優が代表作にめぐり逢うのは至難の業だろうが、三十路を目前に岐路に立つひとりの映画への情熱と執着が、ふたりの役者仲間にも飛び火して、三者にとっての重要作に結実した幸福な作品であるとは思う。ただ、ひとの生死にも関わる因果応報的な悲劇を、かなり強引にファンタジーへと落とし込んだことで、色々と未解決・不確定な要素が棚上げされたまま宙に舞うも、それを無視して唐突な大団円に突き進むのには、違和感を覚える。

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