ピンク・クラウドの映画専門家レビュー一覧

ピンク・クラウド

ブラジルの新鋭イウリ・ジェルバーゼの長編監督デビュー作となるSFドラマ。ジョヴァナとヤーゴが一夜の関係を共にしていたところ、突如、触れると10秒で死に至る正体不明のピンクの雲が世界を覆う。2人は窓を閉め切り、ロックダウン生活に入るが……。出演は俳優&バレリーナ&映画監督として活躍するヘナタ・ジ・レリス、俳優&脚本家&ラジオのブロードキャスターとして活躍するエドゥアルド・メンドンサ。
  • 米文学・文化研究

    冨塚亮平

    その点について作品自体に罪はないのだが、ロックダウン生活をめぐる予見的な細部の大半が、コロナ禍後に見るとかえって陳腐で安直な演出のようにも見えてしまった。また、撮影やリズムの単調さはあえて選ばれた戦略であったとしても、ほぼ全篇が室内で展開する作品にあっては、あまり機能しているとは思えず。ただ、息子の雲への向き合い方は未来予測として非常に考えさせられるし、カップルそれぞれのリモート浮気を描いた場面は、ユーモアとペーソスの配分が絶妙で大いに笑った。

  • 日本未公開映画上映・配給団体Gucchi's Free School主宰

    降矢聡

    何年間も外に一歩も出られないという極限状態を描く映画ならば、私は思いもよらない、見たこともない世界を見たい。しかし本作は、このような状況ならば、彼らのような感情や関係性になるのだろうと思わせることばかりだ。それは人間描写が丁寧で、登場人物たちに共感できると言えるかもしれないが、私にはあまりにも常識的に映った。あるいはもっともっと絶望的に退屈な映画にするという手もあったかもしれないが、それにしては良心的に面白く仕上がってしまっている。

  • 文筆業

    八幡橙

    監督がブニュエルの「皆殺しの天使」を意識したと語るように、あくまであり得ない状況下に突如置かれた人々の心のざわめきを綴る不条理劇……だったはずが、皮肉にも現実が映画に追いつき、そして追い抜いた。結果、ピンクの雲に込めたフェミニズム的な比喩も、浮き彫りになる男女の価値観の相違も、そもそもロックダウンが人に及ぼす心理的影響も、本来の仕上がり以上に曖昧でピントを大きく外した印象に。後に残る監督の若さと狙いを昇華し切れぬもやもやは、また別の話だが。

1 - 3件表示/全3件