非常宣言の映画専門家レビュー一覧

非常宣言

韓国を代表する俳優ソン・ガンホとイ・ビョンホンが共演したパニックスリラー。ハワイに向け飛び立ったKI501便の機内でバイオテロが起き次々に乗客が死亡。しかし着陸は認められず、逃げ場のない上空でさらに感染拡大していき、ついに機体は操縦不能に陥る。監督は、「ザ・キング」のハン・ジェリム。娘の治療のためにハワイに向かっていたパク・ジェヒョクをイ・ビョンホンが、KI501便に乗る妻を救うため地上で奔走する刑事のク・イノをソン・ガンホが演じるほか、「殺人者の記憶法」のキム・ナムギル、「藁にもすがる獣たち」のチョン・ドヨン、「名もなき野良犬の輪舞」のイム・シワンらが出演。第74回カンヌ国際映画祭アウト・オブ・コンペティション部門正式出品作品。
  • 米文学・文化研究

    冨塚亮平

    スマホをフル活用しつつ意外性のある転調が続く終盤はなかなか楽しめたものの、複数ジャンルにまたがる要素を詰めこみすぎた結果、かなりの長尺となってしまっている点はいただけない。後半への伏線を考慮しても刈り込める部分はあったはずだ。また、エンタメとして成立していれば良いという考えもあろうが、登場人物たちの防疫に関する認識の粗雑さは、コロナ以降のバイオテロ映画としては致命的ではないか。「トップガン」の敵役のような自衛隊描写は色々な意味で興味深かったが。

  • 日本未公開映画上映・配給団体Gucchi's Free School主宰

    降矢聡

    航空パニックものは大好きだが、140分超えはさすがに長すぎる。フライト中の機内でウイルスを撒き散らし、乗客を感染させるという展開は、コロナ禍以降の世の在り方を容易に想起させるだろう。ただウイルスは目に見えないので、せっかくの特殊な空間を生かしきれていないように感じる。案の定、空間や運動ではなく、感情のパニックを捉える方へと映画の軸はシフトしていく。感染を拡大させないため、感染者たちが見せた自己犠牲の精神を誇り高く描く様には頭を抱えてしまった。

  • 文筆業

    八幡橙

    ほぼ終始、観る者も乱気流に飲み込まれ、全身揺さぶられっぱなしの141分。機内で起こるバイオテロ。その得体の知れぬ怖さと、無条件に巻き込まれてゆく人々の無力感が、国を越えてリアルにわが身へと響く。さらに、情報ばかりが溢れ、異なる価値観が対立し合い分断を生むことの混沌と不毛までが意図的に描き出される。その点に、コロナ禍に公開される意義を強く感じた。陸のガンホと空のビョンホン、各人の死闘も遥か想像を超え、最後まで着地点が見えず。鑑賞後は、ヘロヘロに。

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