恋人はアンバーの映画専門家レビュー一覧

恋人はアンバー

1995年、同性愛が違法でなくなってから日が浅いアイルランドを舞台にした青春ドラマ。まだ差別や偏見の残る田舎で暮らすゲイの高校生エディとレズビアンのクラスメイト・アンバーは、周囲に自分たちのセクシュアリティを隠すため、恋人同士であるフリをする。監督は、「CURED キュアード」のデイヴィッド・フレイン。出演は、「ぼくたちのチーム」のフィン・オシェイ、ドラマ『ブランニック警部~非情の大地』のローラ・ペティクルーほか。劇中音楽を「Once ダブリンの街角で」のヒュー・ドラムが担当。ニューヨーク最大のLGBTQ映画祭、第32回NewFestにて特別賞を受賞。第29回レインボー・リール東京、第31回TAMA CINEMA FORUM、第20回EUフィルムデーズ上映作品。
  • 映画評論家

    上島春彦

    時代背景はノスタルジーで選ばれたのかと思っていたら違った。アイルランド法制史の重要な局面と徐々に分かる、この趣向が上手い。離婚が困難な宗教的縛りのある国家アイルランドならではの様々な思いが交錯する一家に、仲が悪いのに夫婦でいることに意味はあるのか、と決断がやがて迫られる。ただし中心は周囲へのカムフラージュで交際する振りをする(日本で言えば)高校生カップルの物語。少女の方がやることは計画的だが、振り回される同性愛指向の少年に監督の心情は傾く。

  • 映画執筆家

    児玉美月

    ゲイとレズビアンの「友情」を描くありそうであまりないストーリーを通して、セクシュアリティとジェンダー、都市部と地方……といったさまざまな問題が交差的に語られてゆく。1990年代のアイルランドの保守的な地域を舞台にしているだけあって差別や偏見の描写は厳しくもあるが、監督のデイヴィッド・フレインが愛好するアメリカのレズビアン映画の金字塔「Go!Go!チアーズ」のようなポジティヴさも漲っている。なによりキャラクター造形がチャーミングで、愛すべき作品。

  • 映画監督

    宮崎大祐

    同性愛者同士が異性愛者のふりをしてカップルになったはいいが云々という使い古されたネタが実感をともなう演出とペーソス風味のアイロニーの積み重ねによってなんとも痛ましく心に響いてくる。アイルランドの田舎町、去勢された者たちに囲まれ生きるカップルを演じる主演ふたりは決して達者ではないものの、彼らにしか見せられない決定的な表情や瞬間を映画の中に何度も咲かせている。それにしても、恋愛にしろ性愛にしろ家族愛にしろ、我々が抱く「愛」とは一体なんなのだろう。

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