ナイトライド 時間は嗤うの映画専門家レビュー一覧

ナイトライド 時間は嗤う

94分間ワンショットで撮影したクライムスリラー。ドラッグ・ディーラーのバッジは麻薬密売から足を洗うために最後の大口取引を画策し、闇金のジョーから10万ポンドを借りる。しかし、ブツを積んだバンが何者かに乗り去られ、買い手にも逃げられてしまう。監督は北アイルランド出身の俊英スティーヴン・フィングルトン。出演は、「スパルタン 皆殺しの戦場」のモー・ダンフォード、「テリー・ギリアムのドン・キホーテ」のジョアナ・リベイロ。2021年度トロント国際映画祭インダストリー・セレクト出品、2021年度インド国際映画祭ワールド・パノラマ・セクション出品、2022年度ダブリン国際映画祭ガラ&スペシャル・プレゼンテーション出品、2022年度IFTA映画&ドラマ賞最優秀主演男優賞受賞。
  • 米文学・文化研究

    冨塚亮平

    野外での車をフル活用したワンショットものという、ロックダウン下だからこそ可能になるような、これまでにない映画を撮ろうとする気概は伝わってくる。しかし、今後の人生を左右するはずの重要な一夜に、ほぼひっきりなしに電話で話し続けながら行動する主人公の姿は、さすがに説得力に欠ける。単調な画面が続くなかでもサスペンスを持続させようとする工夫だということはわかるが、観客を退屈させてはならないと意識しすぎでは。もう少し緩急を効かせる余裕が欲しかったところ。

  • 日本未公開映画上映・配給団体Gucchi's Free School主宰

    降矢聡

    ワンカット映画には、近年では「ボイリング・ポイント/沸騰」のように多くの情報量をまとめあげる技巧を誇るものと、可能な限りシンプルに、情報を削ぎ落としていくタイプものがあるようだ。ワンカットでドラッグ・ディーラーである主人公を写し続ける本作は、ほとんどが電話をかけながら車を運転している様子で構成されている。なるほど、このようにすればとても効率よく映画が撮れそうだ、と感心した。ただ、犯罪者なのになぜか英雄のように描かれる主人公は気になるところ。

  • 文筆業

    八幡橙

    94分のワンショット、とはいえ「ボイリング・ポイント」の醸す圧倒的な臨場感や流れゆくノンストップのスリルとはまったく異なる“静”の緊迫感が漂う。カメラはほぼ、車を運転する主人公を捉え続け、走る車内で次々繋がる電話のやりとりを核に物語は進む。視覚以上に耳に訴える構成ゆえ、各々脳内で映像を補う必要があり、そこに乗れるか否かが賛否の分かれ目か。ハリウッド・リメイクされたデンマークの「ギルティ」を思わせる、ラジオドラマや朗読劇風の味わいがじわじわ沁みる。

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