餓鬼が笑うの映画専門家レビュー一覧

餓鬼が笑う

「恋するけだもの」「ミッドナイトスワン」の田中俊介主演による幻想奇譚。骨董屋を目指し、路上で古物を売って暮らす大貫大。先輩商人の国男に誘われ、山奥で開催されている骨董の競り市場に参加した帰り道、大はこの世の境目を抜け、黄泉の国に迷い込んでしまう。共演は「N号棟」の山谷花純、「夜明けまでバス停で」の片岡礼子。監督は「the believers ビリーバーズ」の平波亘。
  • 映画・音楽ジャーナリスト

    宇野維正

    撮影や編集が洗練されているのと、片岡礼子、田中泯、萩原聖人らベテランキャストの重厚感のおかげで作品自体に確かな吸引力は生まれているのだが、結局のところ何を言いたかった話なのだろう? 宗教的な仄めかしや政治的な仄めかしがそこかしこにあるのだが、はぐらかしとしてしか機能していないせいでどうにも居心地が悪い。それらをただのイメージとして独りよがりで弄んでいるのだとしたら幼稚だし、そうじゃないとしたらはぐらかさなくてはいけない理由を邪推してしまう。

  • 映画評論家

    北川れい子

    夢野久作的な歪んだ妄想と、つげ義春世界を思わすリアルな不条理が追いつ追われつする奇妙な作品だが、その割に後味は悪くない。路上でガラクタまがいの品を売っている骨董屋志望の若者が、記憶という落とし穴的な迷路で右往左往。彼が出会う看護師娘のエピソードや、彼を山奥の骨董競り市に連れ出す叔父さんの虚々実々。この競り市シーンがまた小気味いい。痛いエピソードをシレッとただの迷走、妄想にしてしまう語り口もスリリング。こちらを惑わすキッチュな映画は大歓迎だ。

  • 映画文筆系フリーライター。退役映写技師

    千浦僚

    ひとつ難癖つければもう少し滑稽さがある方が主人公の地獄巡りが深まったのではと。格好のつかぬ、西村賢太、町田康の域に。骨董品の競りの場は近年稀な味わいの、新たな映画的シーンの発見だった。また役者がみな素晴らしい。萩原聖人、片岡礼子の凄み。さらにそれを追うインディピラニア軍団とも言うべきこれからの役者陣がスクリーンを埋め、主人公を小突きまわす。もっと彼、彼女らを観たい。私も捨てれば楽なこだわりを捨てきれぬ偏屈貧乏人。ゆえに本作の味方だ。

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