あちらにいる鬼の映画専門家レビュー一覧
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映画・音楽ジャーナリスト
宇野維正
寺島しのぶや豊川悦司と肩を並べて、複雑な人物像にリアリティと尊厳を与えている広末涼子の好演には刮目させられた。60代後半にして今年5本の劇場公開作、配信作品も加えればそれ以上の量産体制にある廣木隆一は、題材的に無理をしていると感じる作品もあるが、この題材は本人的にもしっくりきているのではないか。しかし、瀬戸内寂聴の私生活にまったく興味が湧かないのは本作を観ても変わらず。不倫したけりゃ勝手にすればいいし、出家したけりゃ勝手にすればいい。
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映画評論家
北川れい子
阿吽の呼吸で性愛関係になる作家同士の女と男。瀬戸内寂聴がモデルの作家と、原一男のドキュメンタリー「全身小説家」の井上光晴。周囲の思惑など無頓着な2人と、すべてを承知で見て見ぬふりをする光晴の妻。それぞれが微妙な共犯関係にいる彼らに時代を滑り込ませていくが、作家とか文学界とかを抜きにすれば所詮世間にゴマンとある三角関係、寂聴の出家もスタンドプレーに見えたり。太宰治『斜陽』からの引用か、“青春は恋と革命よ”という台詞がくすぐったい。
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映画文筆系フリーライター。退役映写技師
千浦僚
東京駅でよく作務衣姿の尼さんとすれ違うが、いつもインパクトを受ける。普通の中年女性だが、あの頭、もうそれだけで髪は女の命、だとかいう慣習的容貌から頭抜けた存在感で、ああ反=俗世の何かだな、と感じる。メディアで見る代表的尼僧ビジュアルは瀬戸内寂聴氏だったが流通する氏の姿はもはや一種記号化された、波瀾万丈の後の凪だった。そこを剃り跡青く生々しく艶めかしい、なぜそうなったかというところまで投げ返すのが本作であり、演じた寺島しのぶ氏。
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