柳川の映画専門家レビュー一覧

柳川

「慶州(キョンジュ) ヒョンとユニ」のチャン・リュル監督が、福岡・柳川を舞台に日中スター共演で撮りあげた人間ドラマ。自分が不治の病であることを知ったドンは、長年疎遠になっていた兄・チュンを、2人が青春時代に愛した女性チュアンが暮らす柳川への旅に誘う。出演は「バーニング・ダウン 爆発都市」のニー・ニー、「空海 KU-KAI 美しき王妃の謎」のチャン・ルーイー、シン・バイチン、「宮本から君へ」の池松壮亮。2022年12月16日より福岡先行公開。
  • 米文学・文化研究

    冨塚亮平

    土地の性質から引き出したものを融通無碍に取り入れるような演出と撮影には、実に奇妙ながら独特の味わいがある。ダンスする二人の背後で輝く自動販売機、語りと結びつくトンネルや橋、いくつもの印象的なベンチ、ハッとさせられる競艇選手養成所など、日本の空間をこのように切り取れるのかと驚かされる場面多数。土地や場所の名が複数の言語を跨いで多彩な意味や身振りへと転化する様は、劇中で時に翻訳を経ず共存する多言語や、思わぬ方向へ転がり続ける会話と共鳴するかのよう。

  • 日本未公開映画上映・配給団体Gucchi's Free School主宰

    降矢聡

    柳川という名は、福岡県の地名でもあり、北京語ではリウチュアンと読み、それは昔愛した女性の名前でもある。日本のとある地名と愛した女性の名前というまったく違うものが、たまたま結び付いてしまう不思議。しかしこの福岡の地が、なぜ柳川という名を持つのかという必然があるのと同じように、その女性にもその女性でしかない固有の人生が当然ある。この世界が偶然と必然の不思議なバランスで出来上がっているとするならば、本作はそんな世界の秘密を丁寧に描き出そうとしている。

  • 文筆業

    八幡橙

    チャン・リュル監督“福岡三部作”の〆とされる一本。個人的な感触としては、共にゲストハウスの主人に扮したチョン・ジニョンと今作の池松壮亮の纏う空気、日本人形と少女が醸す神秘性、曖昧なまま綴られる人間関係など、「群山」に通じる匂いを強く感じた。日・中・韓の境をたゆたう監督独自の視点がより強調された本作。詩や文学への造詣、土地土地の、そして時々の空気を取り込む刹那のゆらぎ、唐突に始まるダンスや歌――川に浮かぶ小舟のごとくただ、身を委ねるのが正解。

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