終末の探偵の映画専門家レビュー一覧

終末の探偵

哀愁と色気が入り混じった独特の佇まい、男も女も魅了する不思議な愛嬌を併せ持つ私立探偵・連城新次郎が裏社会を駆けずり回る姿を描き、閉塞した時代に風穴を開けるハードボイルド・エンターテインメント。借金を抱え、酒やギャンブルの悪癖を引きずる半面、情にもろい真っ直ぐな気性の新次郎を、北村有起哉が生き生きと体現した。『傷だらけの天使』や『探偵物語』などの探偵モノの流れをくみながらも、懐古趣味に傾くことなく、昭和の高度経済成長期とは様変わりした21世紀の今を色濃く投影した探偵映画でもある。暴力団対策法によって昔ながらのヤクザは衰退の一途をたどり、団地や商店街などの地域コミュニティーは高齢化で崩壊の瀬戸際。さらに外国人差別などの問題にも目を向け、社会で居場所を失い、生きづらさを抱えた登場人物たちそれぞれの葛藤を映し出す。監督を務めたのは「東京失格」「キミサラズ」の井川広太郎。「ディストラクション・ベイビーズ」「ベイビーわるきゅーれ」のアクション監督、園村健介が携わったチェイス&バトル・シーンにも目を奪われる。
  • 脚本家、映画監督

    井上淳一

    開始3分でダメだと思う映画がある。冒頭、裏ポーカー屋での喧嘩の省略。宙を飛ぶトランプ。床に倒れている客たち。これでイヤになった。しかし探偵への依頼は失踪したクルド人女探し。依頼者は比人の両親を強制送還された過去のある女。VシネマのNGかと思っていたので、襟を正す。そんなテーマを描くのに、ウソ描写では興醒め。なぜ追いかけられて、わざわざ人のいない方に逃げる? 脚本の志は高いのに。脚本家の最大の防御は監督の選択。そのミスが痛い。日本が大嫌いが虚しく響く。

  • 日本経済新聞編集委員

    古賀重樹

    北村有起哉はいい俳優だ。人間の強みと弱み、嘘と本音、虚勢と真情を同時に表現できる稀有な人だと思う。この作品で演じている、ヤクザとも顔なじみの一匹狼の探偵というのは、実にはまり役。夜の歓楽街にヌーボーと立っているだけで絵になるし、それだけで見る価値はある。ただ映画全体としてはどこか物足りない。とうにプログラムピクチャーの時代ではないのに、無理にプログラムピクチャーを撮ろうとしている感じ。それがありありだと、単なるノスタルジーしか残らない。

  • 映画評論家

    服部香穂里

    土地開発が急速に進む街にしがみつき、滅びゆく各々の運命に抗う、しがない探偵とヤクザと中国系マフィア。生き残りをかけて悪あがきする彼らが、同類相哀れむがごとく奇妙な友情や同志愛のようなもので結ばれる主軸のドラマは、新鮮味には欠けるが、丸腰でのアクションにもチームの本気度がみなぎる。視野を現代社会にも広げ、移民問題やヘイトクライムまで貪欲に盛り込む意欲は買うも、失踪したクルド人の描写などは設定レベルに留まり、台詞も説明的で、消化不良の感は否めず。

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