戦地で生まれた奇跡のレバノンワインの映画専門家レビュー一覧

戦地で生まれた奇跡のレバノンワイン

戦争中も不屈の精神でワインを造り続けたレバノンのワインメーカーたちの幸福論と人生哲学に迫ったドキュメンタリー。『食べて、祈って、恋をして』の著者エリザベス・ギルバートや、ワイン界の著名人ジャンシス・ロビンソンらが、観る者を魅惑的なレバノンワインの世界へと誘う。戦争ではなく平和をもたらすために、内戦中にワイン造りを始めた修道院の神父や、虐殺が起こった故郷の村で村の再起のためにワイナリーを続ける夫婦など、極限の状況でもワインを造り続けてきた11のワイナリーのワインメーカーたちが幸福に生きる秘訣を語る。
  • 映画評論家

    上島春彦

    タイトルそのままのコンセプトだが、思えば凄いことではないか。奇跡というのは時にあまりにさりげないものだ、と嘆息するしかない。戦時下であろうがビジネスはビジネス。ワインを作り続ける人々は当たり前のように美味しさを追求する。どこもかしこも戦時下みたいになってしまった世の中だからこそ、貴い。などと力みかえる我々をかえって嘲弄するかのように、淡々とワインが流通していく。考えてみればこの数千年の間、特に中東ではそうやってワインが醸されてきたのであった。

  • 映画執筆家

    児玉美月

    前号でもワインのドキュメンタリーを取り上げたと思ったら、今秋はなんと同テーマの映画が5作以上も上映されるらしい。前号の「ソウル・オブ・ワイン」と本作はまったく趣向が異なる。「ソウル?」は「印象派の監督なので、頭で理解するのではなく、映像を見て心で感じ取る作品づくりが信条」なのに対し、本作は論理的。哲学や思想をさまざまな立場の人間に矢継ぎ早に語らせてゆく。社会と文化によって醸成されるワインを、政治と絡めてスリリングに描いてゆく手つきが見事。

  • 映画監督

    宮崎大祐

    前号の「ソウル・オブ・ワイン」につづくワインもの。だがこちらはそれほど牧歌的な内容ではなく、紀元前三千年頃にはすでに中東で流通し、人類の定住化にも大きな影響をもたらしたとされるワインの歴史とその頃から常に戦火につつまれてきたワインの名産地であるレバノンの歴史がいくぶんいびつな形で対比され、語られる。どうしようもない歴史の流れに直面したとき、ワインでも飲んで己の無力さを笑い飛ばすことくらいしか我々に出来ることはないのかと思うと複雑な気分にもなる。

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