イニシェリン島の精霊の映画専門家レビュー一覧

イニシェリン島の精霊

ヴェネチア国際映画男優賞&脚本賞の二冠に輝いたマーティン・マクドナーの人間ドラマ。1923年、アイルランドのイニシェリン島に暮らすパードリックは、長年の友人コルムから突然、絶縁される。理由が分からないパードリックは、事態の改善を図るが……。出演は「THE BATMAN-ザ・バットマン-」のコリン・ファレル、「パディントン2」のブレンダン・グリーソン。
  • 映画評論家

    上島春彦

    ヴェネチア国際映画祭脚本賞受賞の逸品である。読者の皆さまにはぜひ見ていただきたいが私はこういう映画は「痛くて」ダメ。という意味はご覧にならなきゃ分かるまい。それにしても指一本でも痛いのに、あれはやり過ぎでしょ。誰にとっても得はない。それが自分でなく相手を傷つけるための行為というのが本当に解せない。海の向こうで戦火が上がり、舞台は20世紀20年代のアイルランドの孤島。ということになると何らかの寓意がそこにはあるのだろう。寡黙にして孤高の映画。

  • 映画執筆家

    児玉美月

    マーティン・マクドナーの過去作である「スリー・ビルボード」でも炎上が何度も起こるが、本作でもやはり炎上が重要な意味を担う。映像に意匠を凝らすというよりは、アイルランドの風景の美しさを実直に撮っている印象を受ける本作では、画面の面白さよりも画面で起きていることの可笑しさに懸けられている。劇中でも言明されていたように内戦が勃発していた1923年という時代設定にあって、友人関係に突如訪れる分断と諍いはその比喩なのだろうが、恋愛関係の比喩のようでもある。

  • 映画監督

    宮崎大祐

    今回もマーティン・マクドナーの照準は世界のどこかでいつのまにかはじまり、歴史の中で延々と繰り返されてきた由来不明で理不尽な暴力との対峙にある。情報処理愛好家たちの大好物である物語もリアリズムも関係性も置き去りにして主題だけがむき出しにされた本作は、ともするとカフカ的な何かだの不条理劇だのとまとめられかねないが、厳密に構築されたサウンド・デザインが本作を特異な映画として屹立させている。しかしコリン・ファレルは世界一アイルランドの岸壁が似合うね。

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