パラレル・マザーズの映画専門家レビュー一覧

パラレル・マザーズ

ペドロ・アルモドバル監督がライフワークでもある「母の物語」に回帰して贈る、同じ日に母となった二人の女性の数奇な運命と不思議な絆の物語。主人公のジャニスを演じるのは、アルモドバル監督と7度目のタッグを組む、オスカー女優のペネロペ・クルス。本作で2021年ヴェネツィア国際映画祭最優秀女優賞に輝いた。想定外の妊娠に戸惑う17歳のアナ役には、これが長編映画2作目の出演となるミレナ・スミット。「母性本能がない」と自称するアナの母親テレサ役には「マシニスト」のアイタナ・サンチェス=ギヨン。アルモドバルファンにはおなじみのロッシ・デ・パルマも登場する。女性にとってはまだまだ「困難な現代」の時代を軸に「スペイン内戦」の記憶を織り込み、深くて広い多様な世界観を作り上げた。
  • 映画評論家

    上島春彦

    境遇の違う二人の母親の運命が交錯する瞬間。そこが圧倒的に面白い。しかし皮肉なことに、一方の母親の個人史を形成するスペイン内戦の民族的記憶がかえって話を薄めてしまったようだ。良く出来たスクリプト(あらすじ)を読んでいるみたいな気分に留まる。そうした欠点は欠点として、もう一方の比較的幼い母親の来歴が凄い。描かれず語られるだけだが、こちらがメインであるべきなのではないか。彼女のお母さんの売れない演劇人も深い役柄だ。バランス悪く傑作になりそびれた感。

  • 映画執筆家

    児玉美月

    アルモドバルが一貫して描き続けてきた「母」の主題に、スペインの歴史を併走させてゆく。子を取り違えるというメロドラマのプロット単体にはそこまで新奇性はないかもしれないが、それがそうしたアルモドバルのルーツと合流したときに意味が変容する。「母性」や「レイプ」などアルモドバルがこれまで何度となく取り入れてきた要素を、本作では時代的変化とともに自己批判的に言及している。ペネロペ・クルスをここまで魅力的に描ける映画作家は現代においてほかにいないだろう。

  • 映画監督

    宮崎大祐

    前作「ペイン・アンド・グローリー」で作家としてのすべてを出しきったかに見えた名匠ペドロ・アルモドバル。だが、どうやらあれは序の口だったようで、盟友ペネロペ・クルスとふたたび組んだ本作ではその極彩色の欲望を画面狭しと塗りたくっている。近年映画祭監督界隈がしばしば取り上げてきた「親子の取り違え」という主題もアルモドバルの手にかかると、苦い勝利を落とし所とする家族劇からは遠く離れて、フランコ政権の暗い記憶さえも踏み越える力強い肯定の歩みへと変わる。

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