宮松と山下の映画専門家レビュー一覧

宮松と山下

教育番組『ピタゴラスイッチ』の佐藤雅彦、NHK連続テレビ小説『マッサン』の演出・関友太郎、様々なメディアデザインを手がける平瀬謙太朗からなる監督集団『5月』による人間ドラマ。記憶を失った端役専門俳優・宮松は、連日主人公ではない人生を演じ続ける。『5月』の初長編監督作品。主演は、「トウキョウソナタ」など数々の作品に出演してきた香川照之。2022年第70回サンセバスチャン国際映画祭New Directors部門にてワールドプレミア上映。
  • 映画・音楽ジャーナリスト

    宇野維正

    元「電通の花形クリエイター」(昔のイメージを引きずっていてすみません)を中心とする制作チームが、2022年にVシネマ時代の黒沢清作品のテイストと、その当時の黒沢作品(役からわざとらしさが抜けなくなった「クリーピー 偽りの隣人」以前)の香川照之のイメージをなぞっているのが素直に興味深い。シーンが変わってからもしばらくは本篇なのか劇中作品なのかわからない趣向も上手くいっている。構図がいちいちキマりすぎてるのが、観ていてちょっと恥ずかしかったけど。

  • 映画評論家

    北川れい子

    うわっ、鮮やか、おみごと、後を引く面白さ。瓦屋根の冒頭からそれに続く数シーンの種と仕掛けは、大袈裟ではなく、名マジシャンのトリックのように颯爽としていて、しかも当然大真面目。エキストラをしている宮松を種、おっと軸にして、その撮影場面を、映画でよく使われる“夢オチ”つまり主人公の妄想、幻想ふうにつなげているのだが、監督集団〈5月〉の方々の語り口、実に素晴らしい。ロープウェイの場面も効果的。宮松が山下になってからの香川照之のゆれる表情に降参。

  • 映画文筆系フリーライター。退役映写技師

    千浦僚

    そうじゃない。以前この欄で役者をやっている若者の群像劇を評したときにも感じた。出番がないとか、端役であるとかいう彼らが茫洋としているのは認識の誤りというか、そうでなく水面下で足掻く者をしか私は認めぬ。そして香川照之氏。かつて足掻いていた。熱かった。静ドン、黒沢清Vシネの彼を忘れない。だが驕ったか。スコセッシ「沈黙」を降ろされてからやり直した、亡くなるまでの隆大介氏は素晴しかった。香川氏もまた戻って足掻けばいい。ここではないあの場所で。

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