日本原 牛と人の大地の映画専門家レビュー一覧

日本原 牛と人の大地

岡山県北部の山間の町、奈義町にある陸上自衛隊の日本原演習場の中で牛を飼い耕作をしてきた内藤秀之さん一家を追ったドキュメンタリー。50 年間日本原で平和を求め続け、地元民の営みが根付く重要な土地であることを訴える内藤さん一家の生き方を映し出す。日本映画学校映像ジャーナルコースを卒業、福島第一原発事故を機に2012年に岡山へ移住した黒部俊介監督が、日本原に通い撮影した。内藤秀之さんの次男・陽さんがナレーションを担当。
  • 映画・音楽ジャーナリスト

    宇野維正

    シンプルなアングルからでも共感に至ることができる(もちろんそれも人によるわけだけど)沖縄の米軍基地問題や原子力施設反対の住民運動と違って、本作の舞台となっている日本原駐屯地の問題は、戦後の特異な左翼史と密接に結びついているだけに、まずはその史実から解きほぐす必要がある。しかし、1時間50分をかけてもこの作品は牛と人を通して情緒に訴えるばかりで、知りたい情報に関しては一方的な立場からしか提供されない。正直、何を見せられてるのかわからなかった。

  • 映画評論家

    北川れい子

    反基地運動に軸足を置いてはいるが、ヒデさんは、いわゆる活動家ではない。普段は陸上自衛隊と地元が共同利用している「日本原」で、牛飼いと農業を営んでいる。但し現在この土地を利用しているのはヒデさん一家だけ。それにしてもヒデさんの日常を記録したこの作品から見えてくる、戦前から戦後に及ぶ歴史的 情報量は、かなり貴重で、ヒデさん自身にもドラマがある。ナレーションをヒデさんの息子さんが担当しているのも説得力があり、一見地味だが、見応えのある記録映画。

  • 映画文筆系フリーライター。退役映写技師

    千浦僚

    本作の主な被写体となる内藤秀之さんとそのご家族に、戦後から現在までの日本の課題が凝縮されているのが興味深い。60年代の反権力闘争を学生時代のみの活動ではなくその後の人生につなげていった秀之氏のピュアさ、その衣鉢を継ぐ長男の大一氏はもちろん、抗議活動に積極的でない次男の陽氏の対立を厭う感性も近年の左派劣勢の原基的なものを示すかのようだ。しかし本作監督はその陽氏をナレーション担当として起用することに成功している。その説得、融和にこそ希望がある。

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