ノベンバーの映画専門家レビュー一覧

ノベンバー

悪夢のような純愛をモノクロの映像で紡ぎ第90回アカデミー賞外国語映画賞エストニア代表作品に選出された幻想ラブストーリー。死者の日を迎えたエストニアの寒村。農夫の娘リーナが思いを寄せるハンスはドイツ人男爵の娘に恋焦がれるあまり、悪魔と契約する。原作は、エストニアでカルト的ベストセラーとなった小説『レヘパップ・エフク・ノベンバー(Rehepapp ehk November)』。ライナー・サルネ監督がアニミズムの思想をもとに、異教の民話とヨーロッパのキリスト教神話を組み合わせ、詩情溢れる物語を描き出した。「ムカデ人間」のディーター・ラーザーが男爵役で出演、本作が遺作となった。第10回京都ヒストリカ国際映画祭ヒストリカワールド部門上映作品。
  • 映画監督/脚本家

    いまおかしんじ

    棒の先に刃物がついているような変な道具が動き出し、牛を盗む。そしてヘリコプターみたいにくるくる回って飛んでいく。この変なものは喋るし、液体を吐き出したりもする。蘇った死者は普通に飯食ってるし、サウナにも入る。サウナに入ったらでかい鶏になる。よく分からんがおもろい。ヒロインの女子の美しいこと。好きになった男子は別の娘が好き。彼女は雪の中を裸で悶絶する。一晩中見つめあって、朝まで動かない男子と女子。黒いショール越しのキス。美しくてたまらん。

  • 文筆家/俳優

    唾蓮みどり

    人間たち、動物たち、死者たち、そして得体の知れない使い魔。そんな者たちがモノクロームの世界で生きている。あるいは死んでいる。最初の牛が空中に持ち上げられるシーンから心を鷲?みにされた。とにかく全篇を通してうっとりするほど美しく、さまざまな叫び声が聞こえてときに恐ろしく、光の合間に魂が透けて見えるようでつい目を凝らしてしまう。登場人物たちの表情も素晴らしい。何度でも見たくなるタイプの映画だ。ラストシーンまで片時も目が離せない。

  • 映画批評家、東京都立大助教

    須藤健太郎

    雪景色と狼。長髪の少女。ハイコントラストなモノクロの映像。「マルケータ・ラザロヴァー」(67)の明白な影響下に撮られた1作。つまり本作もヴラーチル作品と同じく絵コンテの実現であり、アニメーションとの親和性が高いのはそれゆえだ。干し草や廃材から作られるクラットが動き出すには悪魔と契約して「魂」を得る必要がある。アニメーションの語源は魂や命を意味する「アニマ」から来ているわけで、監督はエストニアの神話の中にあたかも映画の起源を見つけたかのようだ。

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