ウクライナから平和を叫ぶ Peace to You Allの映画専門家レビュー一覧

ウクライナから平和を叫ぶ Peace to You All

2010年から旧ソ連の国々を取材してきたスロバキア人写真家ユライ・ムラヴェツJr.が2015年にウクライナ入りし、親ロシア派と親欧米派、双方の住民の声を記録したドキュメンタリー。両者の話を聞くことで見えてくる“繰り返される戦争の理由”とは?
  • 映画評論家

    上島春彦

    この企画は映画としてどうこういう質のものではない。もちろん時宜にかなった仕上がりなので多くの方に見てほしい。ウクライナ領土問題の異なる立論を親ロシア側、ウクライナ側双方に取材し報告する写真家の活動記録。平和というのがいかに危ういバランスの上で成り立っているものか、この映画を見ればよく分かる。プーチン氏の領土的被害妄想は彼の出身がKGBだからなのだろうが、彼をもてはやした国際社会や政府の事なかれ主義にも責任はある。欺瞞的平和のありがたさを思う。

  • 映画執筆家

    児玉美月

    ピスキ最後の住人であるソニャという老人女性のインタビュー部分では、彼女の話を聞いていくと、ふいに彼女にカメラを向ける撮影者も画面内に映し出される。その撮影者は、さらに彼女に答えさせていることを謝罪する。とくに遠く離れた日本において彼ら/彼女たちの悲痛の叫びは、ややもすれば情動的な受容に絡めとられそうになるところを、その撮影者の介入によってこの映画が作られたドラマではなく切り取られた現実であることを意識させる効果として機能しているように見えた。

  • 映画監督

    宮崎大祐

    ユーロ加盟をのぞむウクライナ市民によって2013年に起きた大衆デモ・ユーロマイダンから今年ロシアがウクライナに侵攻するまでの流れを、親露・反露派両方の立場から描く。ユニークなのは監督が同じく親露・反露派を抱えるスロバキア人であることだ。大きなモノの一部として安寧に生きたいと願いながらも、自由を手にし独立した個でなければ生の意味などないという近代の十字架を背負った人類をもてあそび蹂躙する上からの純粋暴力にわれわれはどう立ち向かえばいいのだろうか。(採点不能)

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