夜明けの詩の映画専門家レビュー一覧

夜明けの詩

韓国版「ジョゼと虎と魚たち」のキム・ジョングァン監督が冬のソウルを舞台に描く、生と死、時間、記憶をテーマにした幻想的な癒しの物語。イギリスから帰国した小説家のチャンソクは、街のカフェで時間をなくした女性ミヨンと出会い、ある物語を語り始める。主人公のチャンソクを演じるのはNetflixドラマ『39歳』や映画「愛に奉仕せよ」のヨン・ウジン。チャンソクの話に耳を傾けるミヨンに、「ベイビー・ブローカー」のイ・ジウン(IU)。その他、編集者にユン・ヘリ、写真家にキム・サンホ、バーテンダーにイ・ジュヨン。監督曰く、まるで登場人物たちと直接会話しているような感覚に陥る、会話から紡がれる物語。
  • 映画評論家

    上島春彦

    〈夜明けのうた〉なら岸洋子さん歌唱の昭和の名曲で、それを主題歌にした蔵原惟繕監督による歌謡映画も名作だ。こちらの英語題は直訳すると「心の翳」といったところか。主人公は英国帰りの小説家。とはいえ、重要なのはむしろ彼が出会う4人の人々のほうだろう。正確には、それぞれの短篇小説的なエピソードによって主人公が変貌を遂げることの面白さ、というべきか。一時期流行した朗読物というジャンルにも接近しつつ冬のソウルの情景が心にしみる。キム・サンホが愛嬌あり抜群。

  • 映画執筆家

    児玉美月

    小説家が4人の他者と出逢い、対話してゆく形式の映画だが、一人目の物語が白眉。喫茶店で話者二人に面しているのは壁ではなく窓ガラスだが、その向こうを幾多もの忙しない通行者が過ぎる。すると微かに電車のような音が聞こえてくる。そこは喫茶店ではなく、電車の中だったのだ。老いと死と記憶を巡る映画にあって、つまりそれは始発駅と終着駅がある電車を人生に見立てている映像表現なのだろう。そんな一瞬の幻視それだけで、この映画はきわめて価値があると強弁を張りたくなる。

  • 映画監督

    宮崎大祐

    カッコいいタイトルから推測するに、これは映像詩と呼ばれるものなのかもしれない。あるいは、雰囲気映像にそれっぽい詩やナレーションが乗っただけの何か別のものか。スケジュールや予算など、制作における諸々の事情があるのはわかる。だが、冒頭の15分超えのシーケンスをはじめ、80数分の作品の中で何度も繰り返される10分以上の工夫のない退屈な座り芝居、そしてそこで交わされる絶望的にナルシシスティックな会話たち。もう少しお客さんのことを考えてもいいのではないか。

1 - 3件表示/全3件