裸足で鳴らしてみせろの映画専門家レビュー一覧
裸足で鳴らしてみせろ
「オーファンズ・ブルース」でPFFアワード2018グランプリを受賞した工藤梨穂が監督・脚本を務めたPFF(ぴあフィルムフェスティバル)スカラシップの第27弾。盲目の養母のために寡黙な青年二人は、レコーダーを持って“世界の音”を求めて偽りの世界旅行に出る。旅の記録を肉体に刻みながら次第に惹かれ合う直己と槙を、「オーファンズ・ブルース」の佐々木詩音と「蝸牛」の諏訪珠理。きっかけを与える女性・美鳥を風吹ジュンが演じている。フランソワ・トリュフォー監督「隣の女」のセリフ「一緒では苦しすぎるが、ひとりでは生きていけない」から着想を得て、研ぎ澄まされた感覚で「画と音」を綴る青春映画。
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脚本家、映画監督
井上淳一
本作に限ったことではないが、PFFスカラシップなので書くけど、才能を育てるというのは自由に作らせることではなく、クオリティコントロールに責任を持つことだと思う。主人公二人の格闘は明らかに疑似セックスだが、なぜ彼らはその先に進まないのか。養母のための疑似旅行はやがて本当に行こうと、資金のために罪まで犯すのに。その曖昧さ、答えのなさをやりたいのだとしても、そこには作り手なりの論理が必要なのでは。それを経ずして世に出される作品は疑似自慰行為でしかない。
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日本経済新聞編集委員
古賀重樹
二人の青年が録音機材を抱えて「音」を求めて架空の旅をする。いかにも映画的な主題だ。彼らが録る「音」がまぎれもなくフィクションであること、同時にそこにもう一つの現実があること、そこまで含めて映画的なのである。知的なアプローチだ。青春映画と思っていたら、いつしか犯罪映画に横滑りすることもその延長線上にあるのだろうか。ドワイヨン「ラブバトル」に影響を受けたという愛の凶暴さの描き方も面白いが、惜しむらくはもう少しスリリングであってほしかった。
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映画評論家
服部香穂里
数々の名匠への敬愛を育んできたに違いない映画的記憶と向き合いつつ、それに流されることなく、自己の表現を真摯に模索しようとする格闘の記録にもなっているのが、すこぶる魅惑的。暗がりに差し込む温かな光の感触や、“いつか”では不安に駆られてしまう焦燥感のどうしようもない痛みなど、五感をもくすぐる切実なショットを丹念に重ね、うごめき続ける人物たちの心身に肉薄する。撮る/録ることでしか伝えられない何かに、悩みながら果敢に挑む工藤梨穂監督は、映画界の希望だ。
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