響け!情熱のムリダンガムの映画専門家レビュー一覧
響け!情熱のムリダンガム
インド伝統の打楽器“ムリダンガム”奏者を志す青年が、カーストや伝統芸能の承継に伴う軋轢などの困難を乗り越えていく青春音楽映画。本作に惚れ込んだ荒川区の南インド料理店“なんどり”が日本配給を担当。クラウドファンディングにより公開が実現した。出演は「神さまがくれた娘」などで音楽を担当したG・V・プラカーシュ・クマール。
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米文学・文化研究
冨塚亮平
ボリウッドのハリウッド化傾向には複雑な思いを抱く部分もあるが、カースト制やジェンダー問題にまで切り込んだ後半の展開はグローバル基準の導入ゆえに可能となった要素だろう。ジャンルのツボを押さえた構成に加え、なにより圧倒的に素晴らしいのは、映画の説得力の大半がそこにかかっているといってもいい伝統楽器ムリダンガムの音色だ。ドミンゴ・クーラやトリ・アンサンブルの人力テクノを思わせる、倍音が生み出す中毒性抜群のグルーヴは、ぜひ劇場の大音響で体感されたし。
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日本未公開映画上映・配給団体Gucchi's Free School主宰
降矢聡
インドの伝統楽器ムリダンガム作りの職人の息子が、一人前のムリガンダム奏者を目指すストーリー。そこにインドのカースト制度や旧世代のジェンダー観、伝統と革新といったテーマがうまく乗っかっている。しかし気になるのは、自然にはリズムが満ちており、この世界の脈動こそが師匠だと気づく重要なくだりで、映画は自然が鳴らすリズムではなく、大袈裟なBGMをかけて場面を盛り上げようとする点。とても楽しいのだけど、世界の脈動を聞き取り写しとることの難しさも痛感。
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文筆業
八幡橙
時代の波に押される古典音楽を、厳しい師弟関係やカースト制の抱える問題とともに正面から捉えた真っ当な、タミル語による南インド映画だ。それだけに、例えばラージクマール・ヒラニ作品などと比べると、テンポや人物造形、歌とダンスの弾け加減など見劣りする面も否めない。とはいえ“世界中が脈打つ”という台詞に象徴される原初的な音楽の歓びや生命の躍動、その裏に潜む芸能、ひいては人生という道の苦行を確かに描き切らんとする真摯な姿勢が最後まで気持ちよく、好もしい。
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