ラーゲリより愛を込めての映画専門家レビュー一覧

ラーゲリより愛を込めて

辺見じゅんのノンフィクション『収容所から来た遺書』を二宮和也主演で映画化。第二次世界大戦終結後、シベリアの強制収容所(=ラーゲリ)に抑留され、死と隣り合わせの日々を過ごしながらも、生きることを諦めず、仲間たちを励まし続けた山本幡男の半生を描く。共演は「大河への道」の北川景子、「流浪の月」の松坂桃李、「桜のような僕の恋人」の中島健人。監督は「とんび」の瀬々敬久。
  • 脚本家、映画監督

    井上淳一

    シベリア抑留の映画化に心トキメいた。すぐに、抑留の描写は瀬々さんがやってさえこの程度なのかと絶望した。雪に覆われているのに寒さは感じず、食べ物不足は描かれても飢えは伝わってこない。なんちゃって描写の連続。日本映画の限界か。なら、日本映画は本当にクソ。韓国映画から周回遅れどころじゃない。走っているトラックが違う。それは他人事ではないのだけれど。結局、泣かすのは犬と死。遺書のくだり、長過ぎるって。作品の失敗は後に続くこの手の企画を殺す。せめて入れ。

  • 日本経済新聞編集委員

    古賀重樹

    弱者への共感――。メジャーの大作やメロドラマであれ、自身が企画した野心作であれ、瀬々敬久の映画に一貫するのはそれだと思う。そんな瀬々の資質が明確に表れた作品。苛酷な抑留生活に加え、敗戦後にもかかわらず旧日本軍の階級の序列が温存されたソ連収容所での不条理を実に生々しく描いている。みなが長いものに巻かれ、道義に目を背ける。一人を生贄にして、大勢で攻撃する。極限状況がいかに人間を追い詰め、弱き者が犠牲になるか。それはまさに今日的なテーマだ。

  • 映画評論家

    服部香穂里

    俳優陣の真摯な熱演が光る良作とは思いつつ、主人公との関わりのみで機能している風にも見える登場人物像への物足りなさに加え、呆気にとられるほどの元野良の忠犬ぶりや、四者四様の戦友の巧妙に伏線を回収する役回りに、少々あざとさを覚える。結婚式に始まり結婚式に終わる構成も、悲痛なストーリーにポジティブな彩りを与えてはいるが、家庭や家族を築くことこそが愛の前提であるがごとき古めかしい価値観が随所に見え隠れし、作品の間口を狭めてしまったように感じられた。

1 - 3件表示/全3件