愛する人に伝える言葉の映画専門家レビュー一覧

愛する人に伝える言葉

フランスを代表する女優カトリーヌ・ドヌーヴと、本作でセザール賞最優秀主演男優賞を受賞したブノワ・マジメル共演によるヒューマンドラマ。癌を宣告された主人公とその母親が、限られた時間のなかで人生の整理をしながら、穏やかに死と対峙していく過程を見つめる。共演は「永遠のジャンゴ」のセシル・ド・フランス。監督は「太陽のめざめ」のエマニュエル・ベルコ。
  • 映画監督/脚本家

    いまおかしんじ

    だんだん人が死んでいくのを見るのはツラかった。末期ガン患者の話。否応無く深刻になってしまう。主人公の男はひねくれている。強がったり甘えたりめんどくさい奴だ。先生が来てさっと帽子を隠すのが可愛かった。男は病気だけど結構モテモテで何かムカついた。病院にやってくるダンスする人の生々しい色気とか、演劇学校の生徒の弾ける若さとか、のしかかってくる看護師の恋心とか、生きていくことの喜びが対比のように描かれる。「何も残せなかった」と言う男が切ない。

  • 文筆家/女優

    唾蓮みどり

    残された余命の中で、どう生きるのか、そしてどう死にゆくのか。「何も成し遂げなかった」と嘆く主人公の身体は、医者や看護師、母親に優しく見守られながら、季節とともに徐々に弱りゆく。自ら捨てた息子に会いにいくことさえできない。ドヌーヴ演じる母は「息子のため」に身勝手な価値観を押し付けたことを死に際になって後悔する。今年身近な人が癌でなくなっていくのを立て続けに目の当たりにしてきたので、辛い。赦すしかないのは一体誰なのか、疑問が残る。俳優陣が魅力的。

  • 映画批評家、東京都立大助教

    須藤健太郎

    他人の死に付き添う。E・ベルコは「演劇」という枠組みを導入することで、この途方もない仕事を理解しようとしている。コンセルヴァトワールを目指す若者たちに演技指導するバンジャマンの姿は、医師が経験や考えを看護師と共有する様子と重ね合わされる。病室は劇場であり、そこでは死という終幕に向かって人生という名の舞台が披露される。歌があり、音楽があり、ダンスがある。医師や看護師はときに演出家として、ときに俳優として、ときに観客として、その上演に参加するのだ。

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