あなたと過ごした日にの映画専門家レビュー一覧

あなたと過ごした日に

1970年代のコロンビアで公衆衛生の向上に尽力したエクトル・アバド・ゴメス博士の生涯を綴った息子エクトル・アバド・ファシオリンセのベストセラー小説を映画化。監督はアカデミー賞外国語映画賞に輝いた「ベルエポック」のフェルナンド・トルエバ。出演は「しあわせな人生の選択」のハビエル・カマラ、「MEMORIA メモリア」のフアン・パブロ・ウレゴ。
  • 米文学・文化研究

    冨塚亮平

    公衆衛生を改善し、自由を愛しつつ家族を愛した、ハビエル・カマラの柔和な雰囲気がよくマッチしているように思えるエクトル・アバドの生涯に改めて焦点が当たることは間違いなく喜ばしいことだろう。ただ、おそらくは原作の設定を踏襲した息子視点からの語りが、映画としてどこまで効果的だったのかは疑問が残るところ。とはいえ、選挙やコロナ禍も相まって、もはや当時のコロンビアの状況を対岸の火事として眺めていることが難しくなったタイミングでの公開は間違いなく有意義。

  • 日本未公開映画上映・配給団体Gucchi's Free School主宰

    降矢聡

    五人姉妹に囲まれた唯一の息子が父と過ごした日々を回想する。そして映画は回想された父の姿を通して1970年代のコロンビアを浮かび上がらせようと目論んでいるようだ。しかし、優しく知的な父を中心とした家族ドラマが心地よい一方で、父がなぜコロンビアの政治に対して批判的であるのかがあまり見えてこない。「なぜ政治に関わるんだろう」と終盤つぶやく息子と同じく、彼の回想を通してしか父を知らない観客もまた、最後まで父の本当の姿を捉えきれないままである。

  • 文筆業

    八幡橙

    白黒の80年代に比して、有色の70年代の大家族(両親と女子5人、男子1人)の弾ける日々が、甘い郷愁に溺れるのではなく進行形の力と血肉を以て描かれている点に、まず惹かれた。父と息子のある意味での蜜月とも呼べる時期を、ずっと見ていたいと思った。父を偉大なだけでなく、愛嬌や人間味や弱点を孕んだ人物として描き出す、監督の程よい間合いが実に秀逸。父との思い出と、彼の掲げた高邁な思想。その両軸を併走させ、この尺に収め切った脚本(弟)と演出(兄)の協働に敬服。

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