モガディシュ 脱出までの14日間の映画専門家レビュー一覧

モガディシュ 脱出までの14日間

ソマリア内戦に巻き込まれた韓国と北朝鮮の大使館員たちの生死をかけた脱出を描くアクション大作。90年代の実話を基にし、2021年に韓国で公開されるや興行収入30億円を突破、自国映画第1位の大ヒットを記録したほか、青龍映画賞の最優秀作品賞、監督賞を含む計6冠に輝いた。韓国のハン大使に「1987、ある闘いの真実」のキム・ユンソク、カン・テジン参事官に「ザ・キング」のチョ・インソンが扮し、初共演を果たした。対する北朝鮮のリム大使に「国家が破産する日」のホ・ジュノ、北朝鮮側のテ・ジュンギ参事官を「新感染半島 ファイナル・ステージ」のク・ギョファンら実力派が集結。監督は「ベルリンファイル」「ベテラン」などで“韓国のタランティーノ”と称されるリュ・スンワン。モロッコでオールロケを敢行し、衝撃的なスピードとダイナミックなカメラワークによる大迫力のカーアクションを展開。加えて、市街地の破壊によって人々が逃げまどい、暗闇のなかで家族が身を寄せ合う姿を丹念に描くなど、現実社会の出来事を想起せざるを得ないリアリティを追及。エンタテインメントでありながらも、切実な胸を打つ人間ドラマとなっている。
  • 米文学・文化研究

    冨塚亮平

    題材から受ける印象とは異なり、政治的な主題はあくまでもアクションや展開を盛り上げることに奉仕する二次的な要素に過ぎず、とりわけソマリア側の人物がいずれも平板な形でしか描かれていないことには賛否が分かれるだろう。だが、いがみあう南北朝鮮チームが極限状況に追い込まれることで次第に手を取らざるをえなくなる展開は、こう言ってよければ良質の娯楽性に満ちており、とりわけ食卓で両大使館のメンバーが共に食事をとる緊張感溢れる場面以降はぐっと物語に引き込まれた。

  • 日本未公開映画上映・配給団体Gucchi's Free School主宰

    降矢聡

    ソマリア内戦という極めて政治的な題材をここまで面白く描いていいのかと不安になるほど面白い。本作の制作国である韓国側の登場人物が特に良心的に描かれるところに多少のひっかかりは覚えるものの、各国の戯画的に描かれる人物たちのユーモラスなやり取りと、一挙にただならぬ事態に巻き込まれていくシリアスな面のバランスがお見事。韓国と北朝鮮の共闘も、あくまでモガディシュからの脱出劇というアクションを通じて描かれており、必要以上に良い話にならないドライさも良い。

  • 文筆業

    八幡橙

    実話ゆえの重みとか、モロッコ・ロケを敢行し実現した臨場感満載のアクションとか、南北間の刹那的な友情や絆だとか、通常一点に著しく偏るか、すべてが中途半端に終わってしまいそうなところを逐一、フルスイングで娯楽性と共に面白く描き切った稀有な一本。緊張の合間合間に笑いを散らす巧みな緩急、南北の女たちがエゴマの葉に箸を伸ばす場面で見せた繊細な視点、もちろん秀抜な配役の妙などリュ・スンワンの成熟とこだわりと映画への熱や叡知が充ち満ちる、劇場推奨必見作!

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