WANDA ワンダの映画専門家レビュー一覧

WANDA ワンダ

1970年にヴェネツィア国際映画祭最優秀外国映画賞を受賞しながらも、本国アメリカでは黙殺され、近年評価が高まっているバーバラ・ローデン監督・脚本・主演のデビュー作にして遺作。ペンシルベニア州に住む炭鉱の妻が離婚の末に盗難に遭い、人生の崖っぷちを彷徨うロードムービー。70年代アメリカ・インディペンデント映画の道筋を開いたと称される粒子の粗い16mmフィルムの質感はティファニーブルーを基調に、シネマ・ヴェリテ・スタイル(ドキュメンタリー撮影手法)で剥き出しのアメリカの風景をスクリーンに映し出す。マルグリット・デュラスはこの映画を「奇蹟」と絶賛、その想いを継いだイザベル・ユペールが配給権を取得し、フランスで蘇らせた。巨匠監督エリア・カザンの妻でもあったローデンは、彼からの独立宣言とも言うべき本作を残し、癌によって1980年に48歳の生涯を終える。ジョン・カサヴェテス、マーティン・スコセッシ、ジョン・レノン、オノ・ヨーコ、ジョン・ウォーターズ、ケリー・ライカート、ソフィア・コップラ、ダルデンヌ兄弟らが映画を絶賛。2017年、アメリカ国立フィルム登録簿に永久保存登録された。
  • 米文学・文化研究

    冨塚亮平

    映画は、ドキュメンタリー畑のニコラス・プロフェレスによる構図・質感双方の無骨さが素晴らしい撮影とともに、家族を捨て仕事と金も失ったワンダが、場当たり的に目の前に現れる男たちに頼ろうとして失敗を続ける様を、突き放したユーモアとともに追い続ける。彼女の受動性を無批判に肯定するのでも声高に否定するのでもなく、ただその姿に厳しくも優しく寄り添い続けようとするローデンの視線は、当時の女性が強いられた抑圧を想起させるだけではない、普遍的な強度を備えている。

  • 日本未公開映画上映・配給団体Gucchi's Free School主宰

    降矢聡

    だらりと身体を横たわらせ、見るからにダラけた姿が印象的に演出されるワンダは、社会的規範から外れ、社会から置いていかれている人物だ。当然、そんな社会が要請する“良い妻”にも“良い母親”にもなれない彼女は、同じく社会的規範から逸脱する犯罪者と行動をともにするのだが、彼女の目的は、犯罪者と違って金銭でもない。良き人にも、犯罪者にもなれないワンダのどん詰まりの絶望は、しかし多くの新しい女性像を創造し、50年経ってもいまなお鮮明に見るものを突き刺す。

  • 文筆業

    八幡橙

    バーバラ・ローデンが自ら書き、撮り、演じるのは、煙のような人物の不安定で行き場のない彷徨だ。ゆらゆらと心許なく、か細いかと思えば案外太く、目的も野望も気力もないまま漂うだけの人生を淡々と映し出す。ラジコンの耳障りな音に抜ける空。モーテルのゴミ箱へ指で摘んで棄てられるハンバーガーの玉ねぎ。そしてラスト、バーの喧騒の中、煙草をくゆらせ俯くワンダの瞳の奥に潜む底なしの虚……忘れえぬ場面も多数。己を肯定し切れぬ現代的な人物像は、今こそ深く引っかかる。

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