マルケータ・ラザロヴァーの映画専門家レビュー一覧

マルケータ・ラザロヴァー

チェコ・ヌーヴェルヴァーグの巨匠フランチシェク・ヴラーチルが1967年に発表した歴史大作が55年の時を経て日本初劇場公開。「アンドレイ・ルブリョフ」(1971年/アンドレイ・タルコフスキー監督)、「七人の侍」(1954年/黒沢明監督)などと並び評され、1998年にはチェコの映画批評家とジャーナリストを対象にした世論調査で史上最高の映画に選出された。原作はキリスト教と異教、人間と野生、愛と暴力に翻弄される人々を描いたチェコの作家ヴラジスラフ・ヴァンチュラによる同名小説。フランチシェク・ヴラーチル監督の強い執念から、衣裳や武器などの小道具を当時と同じ素材・方法で作成し、極寒の山奥で生活しながら548日間にもわたるロケーション撮影が敢行された。衣裳を後に「アマデウス」(1984年)でアカデミー賞を受賞したテオドール・ピステック、音楽をヤン・シュヴァンクマイエル作品など多くの映画音楽を手掛けるズデニェク・リシュカが担当。綿密にして大胆、崇高で獰猛なエネルギーに満ちた「フィルム=オペラ」。
  • 映画監督/脚本家

    いまおかしんじ

    ヒロインがもう悶絶死するぐらい美しかった。彼女のことを考えるだけで、幸せな気持ちになる。女の人がこんなに美しいとは! こんな気持ちは久しぶりだ。猥雑で詩的でとことん美しい。もう一人の肉感的な女の人もエロくてたまらん。野生動物だ。どっちの女子もトラウマ級に印象に残る。男どももみんな下品でユーモラスで、エネルギッシュだ。羊を連れた牧師が出てくるのだが、こいつが底抜けにアホで情けなくて大好き。暴力と血にまみれた物語。強烈な描写に我を忘れる。

  • 文筆家/女優

    唾蓮みどり

    こんな幸せがあっていいのだろうか。奇跡的としか言いようのない凄まじい映画体験であり、どの瞬間も完璧に作り込まれた映像、すべての登場人物たちの表情に惹きつけられ、この世界にあっという間に吸引されてしまう。完全に映像と一体化したズデニェク・リシュカの作り出す神秘的で魔術的な音楽が、より立体的なものとしてこの身に迫り来て、距離を保てなくなる。マルケータのあやうく鋭い視線に誘われ、喜びとともに朽ち果ててゆく疲弊の快楽に包まれる。映画の完全なる勝利である。

  • 映画批評家、東京都立大助教

    須藤健太郎

    舞台は13世紀のボヘミア。なるほど、雄大な風景をともなう壮大な叙事詩である。衣裳や美術などを通して忠実な時代の再現を図り、長期にわたるロケ撮影で役者とスタッフを作品世界に浸透させた。だが、表現としては、この世界がいかに閉じられているかを強調するつくり。わかりやすいのは、台詞にエコーをかける音響処理だろう。教会の内部ならいざしらず、屋外の開かれた場所であっても人物たちの声はつねに反響をともない、あたかも密閉空間の内側にいるかのようなのだ。

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