3つの鍵の映画専門家レビュー一覧
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米文学・文化研究
冨塚亮平
冒頭と末尾に置かれた三つの家族すべてが同時に目撃する二つの出来事は鮮烈な印象を残すものの、それ以外の時間は基本的にそれぞれの家族をめぐる物語がバラバラに進んでいく。このほぼオムニバスに近い構成には、それがたとえ都市生活の孤独を象徴した演出としては成功しているとしても、どうしても散漫さを感じずにはいられなかった。マルゲリータ・ブイをはじめとする役者陣には惹かれるところが多かっただけに、原作から自由にもう少し別の語り方を模索してみても良かったのでは。
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日本未公開映画上映・配給団体Gucchi's Free School主宰
降矢聡
隠された真実などどこにもなく、起きたことはただ起きたのであり、起きなかったことは、やはり起きなかったという本作の潔さと、しかし人はそれを認められずにありもしない真実を探し、やり直そうともがいてしまうことの残酷さに驚嘆する。本作ではどんなに時間が経過しても、真実という名の救いに辿り着くことはない。ただ子供は成長し、大人はシワが増え、年寄りは死んでいくだけだ。どこまでも救いを描かず、つまりは終わりを拒否するそのあり方は、とても人生に近づく。
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文筆業
八幡橙
一台の車が人をはねた上で、高級アパートに突っ込む。導入からして、不穏。モレッティ初の原作モノだが、「息子の部屋」に象徴されるように、“家族”は彼にとって長年のテーマ。映画はそこから、同じアパートに住む三つの家族の鍵穴の奥の奥をひっそりと深く覗き込んでゆく。アンドレアという同名の息子の父を監督自ら演じ、街中で踊りに興じる人の姿で締める本作は、踊りで始まる「息子の部屋」と繋がる糸も随所に見え隠れ。20年の歳月を経た本人による返歌とも言える、もう一つの名作。
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