オフィサー・アンド・スパイの映画専門家レビュー一覧

オフィサー・アンド・スパイ

歴史的冤罪事件“ドレフュス事件”を映画化し、第76回ヴェネチア国際映画祭銀獅子賞を受賞したR・ポランスキー監督作品。仏のユダヤ系陸軍大尉ドレフュスは、スパイ容疑で終身刑を宣告される。ピカール中佐はドレフュスの無実を示す証拠を発見するが……。出演は、「アーティスト」のジャン・デュジャルダン、「ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語」のルイ・ガレル、「告白小説、その結末」のエマニュエル・セニエ。第45回セザール賞3部門(監督・脚色・衣装)を受賞。
  • 映画評論家

    上島春彦

    ドレフュス事件とエミール・ゾラによる告発記事「我、弾劾す」は昔、世界史で習ったが、これを見ると意外とゾラの役割が限定的だった。あくまで主役は、ユダヤ系軍人ドレフュスを助け出そうと奔走する、彼の元上官ピカール。とはいえ主題が反ユダヤの事例である以上、ユダヤ系監督ポランスキーにもきちんと言及しないと。若い頃に見た映画「ゾラの生涯」におけるドレフュスの肩章が無残にはぎ取られる場面が本作の通奏低音、と監督も語るようにプライドと人権が至上命題と分かる。

  • 映画執筆家

    児玉美月

    映画を批評の俎上に載せる以前に、未成年者への性暴行で米裁判所から有罪判決を受けて国外脱出した上に複数人からの告発が公になっている映画監督が、内容自体それを観客に想起させることを免れないような題材で確信犯的に撮る露悪趣味加減にはなから全くついていけない。この自己言及的な新作は自身のドキュメンタリー映画「ロマン・ポランスキー 初めての告白」から、この映画監督が歯切れの悪い言い訳を繰り返しているようにしか思えない心象をさらに助長させたに過ぎなかった。(★なし)

  • 映画監督

    宮崎大祐

    敬愛するポランスキーの新作ということで楽しみにしていたが、どうにも焦点を結ばぬまま終演をむかえてしまった。この冤罪事件をポランスキーが描くことにした理由はどこにあったのか。己の出自と、まさか自分がいま置かれている状況を、冤罪を受けたドレフュスに重ねているわけではなかろうが、企画との距離感の喪失は、そのまま主人公ピカールへの演出の甘さ、およびピカールとドレフュスの関係性の見えづらさにも直結しており、映画全体の駆動力を大きく削いでしまっている。

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