頭痛が痛いの映画専門家レビュー一覧
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脚本家、映画監督
井上淳一
遺書を入れた檸檬色の封筒を無作為に投函する少女は、自傷癖の同級生にそれを梶井基次郎の『檸檬』よろしく爆弾だと告げる。やがて二人は「もう頑張るのやめよ」と日常を捨てる。箸がなく手?みで食べる弁当。こんな見事に解放を表現した映画を観たことがない。建設中の新国立競技場。社会と個人が絡み合う。台詞が上手い。二人も上手い。惜しむらくはラスト。日常に戻った二人は死以外の爆弾を手に出来るのか。難しいのは分かるが、その先を苦しんで見つけないと檸檬にはなれない。
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日本経済新聞編集委員
古賀重樹
SNS時代の自殺願望をめぐる物語。「死にたい」「死にたい」とつぶやく高校生はいつの時代もいるし、親や教師の無理解と断絶も今に始まったことではない。さしはさまれる梶井基次郎の『檸檬』は100年前の憂鬱だ。それでもこの監督がこの主題に真摯に向き合っていることは痛切に伝わる。例えば温かい布団の中で少女同士が脚を絡めあうショットから。建設中の国立競技場は「日本春歌考」へのオマージュか? というのは評者の妄想だろうが、そんな想像をもたらす力がある。
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映画評論家
服部香穂里
死にたがり女子高生ふたりの運命が交錯し、ボルテージが高まる校内アナウンス場面をハイライトに、それに続く肝心の友情ストーリーが、イマイチはずまない。映画には自暴自棄ゆえの破滅的行動を抑止する力があると信じたいし、そんな可能性を秘めた作品でもあったとは思う。正義感が空回り気味のフリーライターが投げ捨てる遺書さながら、数日間の逃避行に並走しつつも、彼女たちの心身の痛みやその変容に向き合い続けることを、途中で放棄してしまったような虚しさが残る。
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